第594話 今年はドラゴン年!
要塞村には大きな牧場も存在している。
もっとも人が集まる市場から少し離れているため気づいていない人も多いが、常連にもなるとのんびり牧草を食べる牛や馬といった動物たちを眺めて癒され、そこで売られている牛乳などを購入していく。
さらに、この牧場では一般的な家畜の他、二匹のドラゴンと一頭のユニコーンも暮らしている。
それを知ったヒノモト王国のツバキ姫は、トアたちとともにその牧場を訪れた。
「牧場で何をするんですか?」
「いえ、今年の干支がこちらにいると聞いたので、みなさんと一緒に今年一年の健康と発展を祈願しようかと」
「エト?」
トアやエステル、クラーラにマフレナにジャネットは聞き慣れないワードにそれぞれ顔を見合わせて首を傾げた。
「その反応を見るに、ストリア大陸の国々にはありませんのね」
「え、えぇ、初めて聞きました」
「一から説明すると長引いてしまうので諸々省略しますが――言ってみれば、その年を象徴する動物を指しているんです」
「動物……ですか?」
ツバキ姫の言葉を受けてから、トアは牧場で飼育されている動物たちを見回す。
「なるほど……確かに、ここでは馬や牛といった動物がいますからね」
「馬や牛も干支に数えられますが、今年は辰年なので違います」
「タツ? それはどんな動物なんですか?」
エステルが尋ねると、ツバキ姫はある生物を指さす。
「辰とはつまりドラゴンを指します」
「じゃ、じゃあ、今年はドラゴンの年ってわけね」
クラーラがドラゴンという単語を口にした途端、牧場で暮らしているシロとクロの視線がトアたちへと向けられた。
「あら、自分たちの話をされていると分かっているみたいですわね」
「ドラゴンは賢いですから」
「ふふふ、そうなんですね」
ツバキ姫はそう笑って、シロとクロに近づいていく。二匹とも、ツバキ姫が村民であると理解をしているため、抵抗する素振りも見せず近づいていった。
「大きくて怖い見た目をしていますが、ドラゴンとは愛嬌があって可愛らしい生き物なのですね」
「シロとクロが特別ってこともありますが……」
ここまで人間に慣れているドラゴンは他にいないだろうとトアは思う。
しかし、二匹と戯れながら笑顔いっぱいのツバキ姫を見ていると、これ以上のツッコミは無粋だろうなと判断し、何も言わなかった。
ちなみに、この話を聞いた市場の代表者であるナタリーはいい機会だからとシロ&クロに関するグッズ展開を提案。
のちにこのグッズはセリウス王国を中心に爆発的なブームを生むのだが、それはまだもう少し先の話である。
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