第593話 1年最後の日。そして新しい日々へ……
今年一年を締めくくる最後の日。
セラノス王国は今年一番の冷え込みとなったが、要塞村はそんな寒さを吹き飛ばすほどの賑わいを見せていた。
「凄まじい賑わいですねぇ……収穫祭よりも多いんじゃないですか?」
「まさかこんなに集まってくれるなんて驚きだよ」
本日の主役のひとりであるトアとフォルは、いつもの数倍は賑わっている朝市を見て回っていた。
集まっているのは常連であるエノドアやパーベルの人々だけではない。トアとエステルが女神デメティスの力で寿命が延び、長命の種族たちとともに暮らしていけるようになったことを祝うために種族の壁を超えて多くの人が集まったのだ。
そんな彼らはトアを見つけるとすぐさま声をかけにやってくる。おかげでトアの周りはあっという間に人だかりができてしまった。
しかし、それはエステルも同じだった。
本日のもうひとりの主役である彼女の周りにも人が集まり、移動さえできないような状況となっていた。
そんなふたりを救ったのは、
「はいはーい、そろそろ大宴会が始まるので主役を舞台に通してあげてくださーい」
「ご協力をお願いしまーす」
「わふっ! 挨拶はまた後でしてくださいね!」
クラーラ、ジャネット、マフレナの三人が中心となってやってきた人々を誘導していく。
その後、場所を村民たちが準備した特設舞台へと移動し、宴会をスタートさせる挨拶をすることになった。
「き、緊張してきたね、トア」
「あ、ああ」
これまでに見たことのない数の人が要塞村に詰めかけている。
最初にこの無血要塞を訪れた時からは想像もできない光景が広がっており、それを目の当たりにしたトアは何とも言えない感情に包まれた。
「それでは、我らがトア村長にひと言いただきたいと思います」
司会役を務めるフォルからの紹介を受けて、トアが舞台の中心から一歩前に出る。ローザの照明魔法によって照らしだされたトアは深呼吸を挟んでからゆっくりと口を開く。
「えぇっと……こ、これからもよろしくお願いします!」
いろいろと話す内容を準備していたが、大勢の人の前に立った瞬間そのすべてが消し飛んでしまい、素直に心の中の言葉が口から出てきた。
しかし、それがいかにもトアらしかったので全員が「うおおおおおおっ!」と雄叫びのような歓声をあげて宴会が始まったのだった。
「しまった……もっとちゃんとやるつもりだったのに」
「まあ、いいんじゃない?」
「うん。トアって感じがして私は好きだな」
「そうですね。トアさんらしいです」
「わふっ! まさにトア様そのものって挨拶でした!」
「みんな……ありがとう。さあ、俺たちも宴会を楽しもう!」
「「うん!」」
「「はい!」」
トアは込み上げてくる感情をグッとこらえつつそう告げて、四人と一緒に史上最大の盛り上がりを見せる大宴会へと乗り込んでいくのだった。
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