第592話 カウントダウン

 年末が近づくと、徐々に里帰りをしていた種族たちが要塞村へと戻ってきて、それに合わせて活気も出始めてきた。


 さらに、今年はトアとエステルの件を祝い、要塞村で年明けの瞬間を迎えるイベントが催されることが決定。

 これにより、各地から祝福に駆けつけた者たちが続々と要塞村に集まってきた。


 高原に暮らすグウィン族。

 ライオネル率いる獣人族の村。

 さらにヒノモト王国や人魚族の国からも続々と集まってきていた。


「これは凄い規模になりそうだ……」

「収穫祭の比ではありませんね」


 トアとフォルは日に日に増えていく来客に驚きつつ、自分たちを祝うためにこんなにも集まってくれたのだと感激していた。

 一方、エステルも同様に多くの来客に戸惑いながらも、祝いの言葉をかけてくれるたびに顔をほころばせている。

 

「こんなにも人が集まってくれると市場の収益も爆上がりでとてもありがたいわねぇ……これは来年以降も恒例行事ということにしましょう」


 ナタリーはナタリーで、市場がこれまでになく盛況で大満足の様子。


「まだ新年を迎えるのに一週間はあるんだけど、もしかしたらずっとこのテンションでいくのかな」

「そりゃそうでしょ!」

「盛り上がっていきましょう!」


 背後からトアへ抱き着きながらそう叫んだのはクラーラとマフレナだった。ふたりはすでにこのお祭りムードにどっぷり浸かっており、常時ハイテンション状態となっている。


「やれやれ……本番を前にあそこまで燃え上がっていると、新年を迎えた直後には燃え尽きていそうですね」

「ふふふ、今回はフォルに同意ですね」


 テンションが上がりきっているふたりの背後から、こちらは冷静なままのジャネットが顔をだしてそう語る。


「そうだね。本番はまだこれから――あれ?」

「おや?」

「あら?」


 トア、フォル、ジャネットが話している途中で、空から白い何かが降ってきた。

 それは紛れもなく――


「「雪だ!」」


 王虎族のタイガとミューのふたりが嬉しそうに叫び、周りも雪が降ってきたのだと気がついた。


「このタイミングで雪か……」

「もしかしたら、神樹が気を利かせて降らせたのかもしれませんね」

「あら、フォルにしてはロマンチックなことを言いますね」

「ジャネット様……僕はいつだってロマンチックな自律型甲冑兵ですよ?」


 雪が降ってきたことで盛り上がる人々を眺めながら、トアたちは今日ものんびりと自分たちのペースで村の生活を楽しんでいた。


 年末祭まで――あと一週間。

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