第591話 トア・マクレイグの存在
今年の年末はトアとエステルの新たな門出を祝うものとなるので、収穫祭に匹敵する盛大な祭りとなることが決定した。
商人として各地を渡り歩いてきたナタリーの人脈や、王家の関係者であるケイスの呼びかけなどもあってかなりの人手が予想された。そのため、村民たちは例年であればもう少し遅い時期に里帰りをするのだが、今年は少し早めの出発となった。
「この時期にこれだけ人がいないっていうのも不思議な感覚だな」
「そうね」
いつもなら朝市で賑わっている時間帯だが、村民の大半が里帰り中のため当面の間はお休みとなっている。そのため、エノドアやパーベルからの客も途絶えていた。
トアとエステルは静かな村を歩きながら今後について話し合う。
と言っても、内容としてはこれまでとあまり変わらない。
この平穏な生活がいつまでも続けられるように、また新しいことへドンドン挑戦していこうと意気込んでいた。
そこへ、
「やあ、ご両人」
八極のひとりであるシャウナがやってきた。
「どうかしたんですか、シャウナさん」
「いやなに、いつもより静かで寂しいものだからどうにも調子がでなくてねぇ。クラーラがフォルの頭部をかっ飛ばしてくれないと、いまひとつ盛り上がれないんだよ」
「あははは……」
気分を盛り上げるために頭を吹っ飛ばされるフォルも災難だが、寂しいという点については同意できた。
「まあ、これも今だけだな。三日もすれば里帰りから戻ってくる種族も出てくるだろうし、そうなると年越しイベントに向けての準備が始まるだろう」
シャウナの言う通り、各種族が里帰りから戻ってくると、それから二週間後にはナタリーの企画するイベントが予定されている。
「話によれば世界のあらゆる酒が用意されるらしい……くくく、実に楽しみだよ!」
イベントの中でも、特にシャウナの場合は振る舞われる酒に関心が強いようだった。
エステルはやれやれといった感じに肩をすくめているが、トアはこれだけで終わりじゃないと察していた。
「あの、シャウナさん……もしかして――」
「皆まで言うな、トア村長。ここからは内密の話といこうじゃないか」
「えっ? 内密?」
「サプライズというヤツだよ、エステルくん」
「……何か企んでいるのね、トア」
「あ、ああ、まあね」
トアとしてはうまく隠しているつもりでも、エステルにはシャウナに依頼しているのか、その内容を大体察していた。
それぞれの思惑が動きだす中、要塞村の年の瀬は今日もゆったりと過ぎていくのだった。
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