第588話 同期への報告
女神デメティスから寿命を延ばしてもらったトアとエステル。
翌日には収穫祭の跡片付けで大忙しの村人たちを集め、そこで事情説明を行う。
にわかには信じられない話ではあるが、そもそもトアやエステルがそんなことを冗談で言うような性格でないことと、クラーラやローザなど、多くの証言者がいたとあって誰も疑いを持たなかった。
「寿命な一万年なんて……途方もない数字ねぇ」
「ホント、驚きだわ」
村医ケイスや市場の責任者であるナタリーは顔を見合わせながらそう語る――が、最終的に両者が行き着いた結論は、
「「でもまあ、トア村長ならそうなると思っていたけど」」
であった。
これはふたりだけでなく、村民のほぼ全員が抱いていた気持ちだった。
特にエルフ族や銀狼族といった長命の種族には、トアがあと百年以上は生きられないだろうという現実を改めて突きつけられ動揺したが、すぐにそれが解消されたと思い出してホッと胸を撫でおろしていた。
彼らの反応を見て、トアは自らの判断が間違っていなかったと判断した。
今は各種族が仲良く暮らしているが、何をきっかけにこれが崩れるか分からない。だが、少なくともトアが生きている間は問題ないだろう。女神デメティスもそれを理解していたからトアに寿命を延ばす提案をしたのだ。
そういった事情もあり、村民たちからは受け入れられた――が、トアとエステルにはあと三人ほどこの事実をすぐに伝えたい相手がいた。
ふたりはそれを実現するため、エノドアへと向かう。
訪れたのは自警団の詰め所であった。
ここで会うのはもちろん――元セリウス聖騎隊の同期であるクレイブ、エドガー、ネリスの三人だ。今回は他にもヘルミーナやジェンソンといったこれまでお世話になった人たちも交えながら収穫祭の裏で起きていた事態について説明をしていく。
「これは驚きだな……」
「マジかよ……」
「ちょ、ちょっと信じられないわね……」
クレイブたち三人をはじめ、エノドア自警団の面々は突然の寿命延長に驚きを隠せない様子であった。しかし、ここでもやはり「トアとエステルならそうなってもおかしくはない」という結論に至り、すんなりと受け入れたのだ。
「となると、俺たちはトアよりもだいぶ早く死ぬことになるな」
「まだ十代だっていうのに、随分と気の長い話ね」
「寂しくなるな」
少し暗い空気となってしまったが、それを引き裂くような明るい声の持ち主が詰め所へと入ってくる。
「話は聞かせてもらったよ! この元セリウス聖騎隊エース候補の僕としては君たちの――」
「そういうわけだから、今後ともよろしく、クレイブ」
「ああ。よろしくな」
「強引にスルーしすぎだろ!?」
乱入してきた元同期のホルバートからの応援されたトアは、今後の村の発展に向けてさらに努力をしていこうと決意を新たにするのだった。
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