第589話 三人娘談義

 トアとエステルがエノドアへと出かけている間、要塞村はいつもの穏やかな雰囲気に包まれていた。

 そんな中、クラーラ、マフレナ、ジャネットの三人は神樹ヴェキラの近くにあるベンチに座って話し合っていた。内容はやはり、トアとエステルが女神デメティスの力によって寿命が延びたことについて。


「いやぁ……驚いたわねぇ」


 切りだしたのはクラーラだった。


「まさか寿命が延びるなんてねぇ」

「驚きでした」

「わふぅ! でも嬉しいです!」


 裏表のない笑顔で語るマフレナを見て、クラーラとジャネットも思わず頬が緩む。


「完全同意だわ。……正直、トアとエステルが先に年を取っていくのって凄く寂しい感じがしていたから、一緒に年を取れるって分かって安心したわ」

「私もです」


 三人は口にこそ出さなかったが、トアとエステルの種族が人間で、寿命があまりにも違いすぎるという部分に不安を感じていた。同じ人間でありながら三百年以上生きているローザにその秘密を分け与えてもらいたいという気持ちもあったが、さすがにそれを勧めるのはためらわれた。


 しかし、女神デメティスによってトアとエステルの寿命延長が実現。

 夢が叶った三人はとても喜び、これからどうしていこうかと真剣に考えていたのだ。


「ケイスさんとかナタリーさんとか、一部人間もいるけど、ほとんどが別種族だからねぇ」

「みんなトアさんやエステルさんが自分たちと同じくらいの寿命になってくれて安堵しているようでした」

「わふっ! お父さんもとても喜んでいました!」

「確かに、ジンさん泣いてたもんねぇ」

「というか、ほとんどの人が泣いていましたよ」

 

 トアたちが村民たちに事情を説明している状況を思い出しながら、その時のリアクションを語っていく三人。

 そうこうしていると、話題のトアとエステルがエノドアから戻ってきた。


「ただいま」

「三人で何を話していたの?」

「「「…………」」」


 クラーラ、ジャネット、マフレナの三人は顔を見合わせると「秘密!」と笑顔で声を揃えながら答えた。


「えぇ? なんか気になるなぁ」

「悪巧みでもしていたの?」

「違うわよ」

「みんなでこれからの話をしていたんです」

「これからも五人で楽しい時間を過ごせるねって!」

「楽しい時間か……そうだね」


 トアは改めてクラーラたちとこれからも暮らしていけるのだなと感じ、じんわりと嬉しさが込み上げてきた。


「クラーラ、ジャネット、マフレナ」

「うん?」

「なんでしょう?」

「わふ?」

「これからもよろしくな」


 何気なくそう告げたトアへ、三人娘は「「「こちらこそ」」」と声を合わせるのだった。

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