第587話 要塞村の未来

 要塞村の未来を決める大事な話し合い――なのだが、トアたちの答えは最初から決まっていた。


「一万年の寿命……俺はこの提案を受けたいと思う」


 多くの種族が暮らし始めて数年だが、寿命の長いエルフ族や獣人族、さらにドワーフ族などなど――人間を除けばほぼすべての種族がそれに該当するのだが、彼らにとって数年とはほんのわずかな時間に過ぎないのだ。


 現に、要塞村の原型となっている無血要塞ディーフォルを最初に発見した時から、トアの体に大きな変化が起きていた。


 身長は伸び、顔つきも大人の男性に近づいている。

 無理もない。

 当時十四歳だった少年も今や十九歳。

 セリウス王国の基準では立派に成人扱いなのだ。


 人間としては当たり前の成長だ。

 誰もあらがえない。

 

 しかし、出会った頃と変わらないクラーラやジャネット、マフレナの姿を見ているうちに自分だけが先へ進んでいってしまうという焦りを感じていた。


 間違いなく、自分はクラーラたちよりもずっと早くこの世を去る。

 その先の要塞村は一体どうなるのか。

 せめて、今よりも村民たちの絆がさらに深まり、国家とのつながりより強固なものとしていければ――それを叶えるためにも、女神デメティスからの提案を受けるとトアは決めたのだ。


 これに対し、集まった全員がトアの意見を尊重する。

 話しがまとまったところで報告に行こうとする――が、ただ、ひとつだけ女神に条件をつけようと考えていた。


 それを告げるため、トアはみんなと一緒に女神デメティスのもとへ。


「どうやら、覚悟は決まったようね」

「えぇ」


 晴れやかな笑顔で、トアは告げる。

 さらに、


「ひとつだけ、追加したい条件があります」

「聞きましょうか」

「エステルも同じように寿命を延ばしてもらいたいんです」


 これもまた、以前から話していたことだった。

 トアと同じように、エステルもまたクラーラたちとの寿命の違いに悩みを抱えおり、ローザの魔法で寿命を延ばすべきか悩んでいた。それを知ったトアは、いずれ機会を見てそれを実行しようと考えていたのだが、まさかこのような形で実現するとは思ってもいなかった。


 このトアの提案に対し、女神デメティスはふたつ返事で「OK」を出す。


「まあ、そういう提案になるだろうって気はしていたけどね」


 女神デメティスは笑顔で言うと、両手を広げて神樹ヴェキラへと向き直る。


「この子たちの願いを叶えるためにも、あなたの魔力を少し借りるわね」


 その呼びかけに応えるかの如く、神樹の金色の輝きはさらに強さを増していき、やがてトアとエステルを包み込んだ。


「私は天界からこの村の行く末を見守らせてもらうわね」

「はい。みんなで力を合わせて、これからもいい村にしていきます」

「期待しているわ」


 トアの力強い言葉を聞いた女神デメティスは微笑み、神樹の輝きとともに姿を消したのだった。

 

「こ、これで本当に寿命が延びたのかしら……」

「間違いない。ワシらにはそれがよく分かる。のぅ、シャウナ」

「ああ……これで要塞村は安泰だな」


 八極ふたりからのお墨付きをもらい、トアとエステルは顔を見合わせて笑う。そこにクラーラ、ジャネット、マフレナの三人も加わった。


 こうして、要塞村は新たな一歩を踏み出したのだった。

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