第586話 迫られる決断
「では、単刀直入にまいりましょうか」
女神デメティスは笑顔のままトアへ本題を投げかける。
「このままいけば、あなたの寿命はあと七十年ほどで尽きるでしょう」
「っ!?」
いきなり寿命を突きつけられて動揺するトア――が、実はこういう話題が振られるのではないかという予測もしていたのですぐに立て直す。
「あ、あの、俺の寿命と女神様が要塞村へやってきた理由がどうつながるんですか?」
「あなたも内心は分かっているのではないですか?」
まるでトアの心を読んでいるかのように発言を先読みする女神デメティス。そこまで言われてはもう内にとどめておく必要はないと判断し、自分が思い浮かべていた可能性を口にしてみる。
「神樹の加護を受けている俺の存在が欠けてしまうと……要塞村を今の状態でキープしておくことは難しいというわけですね?」
「その通りよ」
トアとしては、薄々勘づいてはいた。
要塞村の産業の多くは神樹から得られる魔力をもとに行われている。その加護はトアがこの要塞ディーフォルに要塞職人としての能力を発動したからこそ得られているわけだが、もしトアがいなくなってしまうとその加護も消滅してしまう。
そうなれば、今のように豊かな生活を維持していくのは難しいだろう。
ずっとトアはそれを心配していたのだ。
――だが、それはトアだけでなく女神デメティスも同じだった。
「私としては、あなたにはもうしばらくこの世界に残っていろんな種族を導いてほしいと思っているの。他種族が争いなく平和に暮らしていける世界……それは私の目指すべき世界の姿でもあるから」
「デメティス様……」
女神の願いは、トアの願いそのものでもあった。
自分がいなくなり、神樹ヴェキラの力を存分に発揮できなくなった世界――なるべく考えないようにはしてきたが、要塞村がここまで大きくなってしまってはもう見て見ぬふりはできないだろう。
振り返ると、エステル、クラーラ、マフレナ、ジャネットの四人が静かにトアを見つめていた。皆、最後の判断はトアへ任せるつもりらしい。
トアはもう少し質問をしてみようと思い、口を開く。
「具体的に、俺はあと何年ほど生きれば……」
「一万年くらいはいてもらいたいわね」
「い、一万年……」
人間からすれば途方もない年月だ。
間違いなく、トアを昔から知るクレイブたちのような存在はいなくなっているだろう――その中には当然エステルも含まれている。
「……あの、デメティス様」
「何かしら?」
「その……いくつか条件をつけてもらってもよいでしょうか」
「構いませんよ。こちらからお願いしているのですから」
「ありがとうございます」
そう言って、トアはエステルたちの方へと歩み寄る。
さらにローザとシャウナ、さらにはフォルも合流して話し合いを行う。
――要塞村の未来を決める大事な話し合いを。
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