第585話 女神と収穫祭
魔導鉄道の開通もあって、この年の要塞村収穫祭は過去最大級の賑わいとなった。
中には別大陸からわざわざ船に乗ってやってきたという者までいるらしく、その多くは祭りを楽しむのはもちろん、さまざまな種族が暮らす要塞村の実態と、その生活を可能としている神樹ヴェキラを拝むために来訪していた。
そんな人々の中にシレッと紛れ込む女神デメティス。
本人たっての強い希望により、最終日以外は普通の人間と同じように振る舞うとのことだったので、トアたちも他の来訪客と同じように接した。
急な事態に備え、近くにはローザやシャウナといった実力ある者が半ば護衛のようについて回り、鋼の山からジャネットによって招待された同じ八極のガドゲルも巻き込まれる形になって防衛は万全だった。
しかし、そんな周りの気遣いもあってか、デメティスは収穫祭を心から楽しんでいる様子だった。
周りの一般客もまさか本物の女神がいるとは夢にも思っておらず、馴れ馴れしく話しかけたりダンスに誘ったりとやりたい放題。彼女の正体を知る天使族のリラエルはハラハラしながら状況を見守っていたが、結果としてその心配は杞憂に終わる。
一方、トアたちも例年通りに祭りを楽しみつつ、もはや毎年恒例行事となりつつあるバーノン王の案内役も務めたり、精力的に動き回った。
そのおかげもあり、収穫祭は大きな混乱もなく進行していき、あっという間に最終日を迎えたのだった。
――迎えた夜。
後夜祭という形で最後の最後まで祭りを楽しもうとする人々の熱気から離れた場所。
もともとはお月見用に造った神樹ヴェキラのすぐ近くにある広場で、トアたちは女神デメティスを待っていた。
「いよいよか……」
「一体、何を言うつもりなのかしら」
「女神様が言うことだから、変な話じゃないんでしょうけど」
「やっぱり不安ですおねぇ」
「わふぅ……」
エステル、クラーラ、ジャネット、マフレナの四人は不安そうにしているが、立ち会っている八極の三人は至って冷静だった。
特にローザとシャウナは事前に話をしているので大体の流れは理解している。
「恐らく、この村の未来に関してじゃろうな」
「もしかしたら、もう少し踏み込んだ話をするかもしれないけどね」
「なんといってもあの女神さまだからなぁ……まったく読めん」
これから何が始まろうとしているのか。
女神は一体何を考えてやってきたのか。
すべてが謎に包まれる中――ついに女神デメティスがリラエルとともにトアたちの前にやってきた。
「お待たせしました」
「い、いえ、俺たちもついさっき来たばかりですから」
目の前に立っている女神デメティスは、祭りを楽しんでいた時とはまるで違う雰囲気を醸しだしていた。自然とひれ伏してしまいそうな神々しさと言うべきか、ともかく自分たちとは根っこから存在が違うと思い知らされるようなオーラを放っていたのだ。
「そんなに緊張しなくていいですよ」
クスクスと笑いながらそう語るデメティス。
果たして、彼女は何を伝えるためにトアたちを呼んだのか――その理由が今明かされる。
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