第579話 要塞村プール大改装【後編】

 村長のトアが口にしたまさかの提案。

 この要塞村プールを破壊しろというものであったが――厳密に言うともう少し限定的な言い方ができる。


「破壊と言っても、壊してもらうのはこちらの壁です」

「「「「「壁?」」」」」


 カクンと首を傾げる銀狼族と王虎族の若者たち。

 トアが指さす先には、プールと外を隔てる石造りの壁が。トアはここを破壊して外との垣根をなくそうと考えていたのだ。


「つ、つまり、村長はこのプールを外へ拡大させようと?」

「その通り。それに、外と言ってもまだ要塞の敷地内だから、俺の《要塞職人》としての能力は有効のままなんです」

「ならば改装もお手の物ですな」


 銀狼族と王虎族の若者たちはトアの狙いを理解して早速作業へと取りかかる。

 しかし、もともとは苦境に立たされていた帝国が戦況を一変させるために建設させた切り札ともいうべき要塞。すでに完成から百年以上が経過しているものの、頑丈さは長く住んでいる住民たちなら誰もが知っている事実だ。


 なので、破壊すると簡単に言ってもなかなかうまくはいかなかった。パワー自慢の若者たちが代わる代わる挑戦するも、うまくいかずに断念。

 そこへ、ついに真打が登場する。


「やっぱり、私の出番になるわよね」


 愛用の大剣を構えたクラーラだ。

 軽くストレッチをしてから、ブン、と音がするほど勢いよく剣を振り回し、勇ましい雄叫びをあげながら強烈な一撃をお見舞いする。

 次の瞬間、「ドゴォン!」という衝撃音とともに壁は粉砕され、外の景色があらわとなった。


「す、凄い……」

「さすがはクラーラさんだ」

「獣人族顔負けのパワーだな」


 本来なら、エルフ族であるクラーラよりも獣人族である銀狼族や王虎族の方が身体的な力は上のはずだが、クラーラに関してはその常識が通用しないのだ。

 ともかく、こうして外への道はできた。

 ここからはトアの《要塞職人》としての力が試される。


「さて……それじゃあ久しぶりにやりますか!」



  ◇◇◇



 次の日。

 新たに生まれ変わった要塞村プールが早速解禁となり、多くの人々で賑わっていた。


「おぉ! そとにもプールがあるぞ!」

「屋内もよかったけど、外だとさらに開放感があるわね!」


 口々に飛びだす感想は、新しいプールに対する期待に満ちたものであった。


「よかったじゃない、トア」

「これは好評間違いなしですよ」

「ありがとう、ふたりとも」


 エステルとジャネットのふたりが完成したプールをトアと眺めていたら、


「ちょっと! まだ着替えてなかったの?」

「わっふぅ! 早く泳ぎましょう!」


 早くも水着に着替えて泳ぐ気満々のクラーラとマフレナ。

 ふたりのヤル気に思わず笑みをこぼす三人は、すぐに着替えてこようと一旦要塞へと戻るのだった。

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