第578話 要塞村プール大改装【前編】

 真夏のセリウス王国は猛暑日が続いていた。

 例年になく暑い日が続いていることもあって、トアは農作物にも影響が出始めていると要塞村の市場にやってきていた農家の人々から教えてもらった。

 ついには日差しにやられてダウンする人々が続出。

 バーノン王からできる限り外出を避けることとこまめな水分補給をするよう国内のいたるところに使者を送って伝えていた。

 

 要塞村では暑さ対策として無血要塞ディーフォル時代に武器庫として利用されていた場所をプールに改装していたのだが、その利用者は最近増している。

 もともと一般には解放されていなかったのだが、日に日に要望が強まっていったことから村民たちへ村長のトア自らが説明をし、一般開放へとつながったのだが、


「うーん……さすがに外部の人たちを入れるとなったら手狭になるかな」


 あまりにも利用者が増えたため、現在は入場制限をしているのだが、まだまだ暑い日は続くという話なので、早急に手を打とうとトアはプールを視察。

 だが、具体的な案は何も浮かばず、ただ時間だけが過ぎていった。


「今回ばかりはさすがのトアも苦戦をしているようね」


 そこへ、水着姿のクラーラがやってきた。

 身体能力の高い彼女は、子どもたちも多く遊んでいるこのプールで監視員の仕事をしていたのだ。


「これ以上大きくしようにも、場所がないものね」

「そうなんだ……それが課題なんだよなぁ」


 腕を組み、ため息を漏らすトア。

 ここはそもそも村民たちだけで楽しむ場所であった。完成から数年が経ち、村民の数が増えてきて、さらに市場ができるとよその町や村の人たちがたくさん要塞村を訪れるようになっていった。それがきっかけで、利用者も増え続けている。


 トアとしては、なんとかみんなが楽しめる場所にしたいと考えているのだが、物理的にそれが無理であるとも理解している。


「《要塞職人》のジョブをもってしても、存在しない空間を生みだすのはさすがにできないわよねぇ」

「存在しない空間――待てよ!」


 何気ないクラーラの言葉に、問題を解決する大きなヒントが隠されていた。


「ど、どうしたの?」

「ありがとう、クラーラ! おかげでいいアイディアが浮かんだよ!」

「よ、よく分からないけど、トアの助けになったのなら私も嬉し――」

「早速準備に取り掛かるよ!」

「って、最後まで聞きなさいよぉ!」


 走り去るトアに抗議するクラーラであったが、「それもまたトアらしい」と呆れつつ微笑むのだった。



  ◇◇◇



 翌日。

 この日はプールを臨時休業とし、銀狼族や王虎族たち力自慢の若者たちを集めていた。

 彼らは村長であるトアに呼びだされたものの、なぜ集められたかまでは聞かされていなかった。

 しばらくすると、フォルとクラーラを連れたトアがプールへとやってくる。


「お待たせしました。それでは早速作業を始めていきたいと思います」

「は、始めるって、何をですか?」


 ひとりの銀狼族の青年がトアに尋ねると、


「あなた方には――ここを破壊してもらいます」

「「「「「っ!?」」」」」


 思いもよらぬ言葉が返ってきた。

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