第577話 要塞村農園交流会

 夏の要塞村の風物詩――それは夏野菜の収穫。

 大地の精霊女王アネスや大地の精霊たちによって管理されるその農園は時期になると村の子どもたちが集まり、収穫を一大イベントとして盛り上げるのだ。

 今年もまた、トマトやピーマンといった野菜を収穫しようとしたのだが……ここで思わぬ問題が発生。


「うーむ……ちょっと拡大をしすぎたか……」


 トアは顎に手を添えて考え込む。

 実は、魔導鉄道の開通に伴い、市場を訪れる人が増加したため、販売される農作物の数を増やそうと農場を大きくしたのだ。


 アネスやリディスをはじめとする大地の精霊たちの力も借りて大きくはできたのだが……今度は収穫し終えるかどうかが問題となった。


「子どもたちだけでは難しいかもしれないな……ここは大人たちの手も借りないと」

「ですね。僕は手の空いている方を捜して声をかけてきます」

「頼むよ、フォル」

 

 いつもは子どもたちの仕事ということで、大人たちはそれぞれの仕事に汗を流している。今から集めようとしても難しいかもしれない。


 ――と、その時、


「うん? あそこにいるのは……」


 トアが見つけたのは、農園の入口に立つ三人の子ども。

 男の子がふたりと女の子がひとり。

 何やらこちらをジッと見つめている。


 何か用があるのかと、トアは声をかけた。


「どうかしたのかい?」

「あっ、えっ、えっと……」


 何やら動揺している子どもたちだが、リーダーと思われる茶髪の少年が一歩前に出てトアへ事情を説明する。


「お、俺たちは王都の出身で、こんな風に畑で野菜を収穫しているところを見るの初めてだったから……」

「なるほど……」


 彼らは都会育ちで畑を間近で見るのは初めてなのだという。その情報を得てから改めて三人の身なりをチェックしてみると、確かに平民にしては上質な衣服を着ていた。恐らく、名のある商人だったり、城で働く文官の子どもなのだろう。ちなみに、三人の親は現在市場で買い物中らしい。


 子どもたちの表情を見たトアは、彼らにある提案をしてみる。


「君たち、実際に収穫をやってみないか?」

「「「えっ!?」」」


 最初はお互いに顔を見合わせて、どうしようかと迷っている様子であったが、意外にも最初に声をあげたのは一番大人しそうな女の子だった。


「わ、私、やってみたいです」

「っ! な、なら、俺も!」

「僕もやりたいです!」

「よし。決定だ」


 女の子につられるように、他のふたりも参加を決意。村に住む銀狼族や王虎族の子どもたちに収穫の仕方を教えてもらいながら、収穫を始めていく。それをきっかけに、次から次へと市場に来ていた子どもたちが収穫に参加していった。


「これは……なんとかなるかも」


 村の子どもたちに加え、市場にやってきていた子どもたちも急遽参加が決定。

 身分も年齢も関係なく、全員が泥だらけになりながら生まれて初めての収穫体験をしていった。

 その成果もあり、心配されていた収穫はすべて無事に終了。 

 あとから集まってきた大人たちは、子どもたちの頑張りに皆驚いていた。


「これは来年以降、ひとつのイベントとして運営できそうね!」


 事の顛末を聞いた市場責任者であるナタリーは、早速次回の開催に向けて意欲を燃やす。

 トアとしても、子どもたちに農業を楽しんでもらえるならと快諾。


こうして、来年以降の定期開催が決定したのだった。

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