第580話 嵐を呼ぶ収穫祭

 季節は夏から秋へと巡り、今年も毎年恒例の要塞村収穫祭が近づいてきた。

 今年も多くの人で賑わいが予想されるため、例年よりも早い段階で準備が進められることになったのだが、その影響でトアはここ数日大急がしであった。


 あまりにも仕事量が増えたため、今年からナタリーやケイスなど村の有力者たちを中心にした運営委員会を新たに設置。当日参加予定の商人やらイベントやらを複数人で分担し、トアの労力をなんとか軽減させた。


 おかげで、最近は少し余裕ができており、今日も朝から村の様子を見ながらいつもの散歩コースを歩いている――と、


「うん?」


 視界に飛び込んできたのは、見慣れぬ女性だった。

 年齢はトアよりも少し年上だろうか。

 まるで雪のように真っ白で長い髪を涼やかな風に踊らせている彼女の足取りは、この要塞村へと向けられているようだった。

 あまりの美しさに、トアはしばらく見惚れていたが、


「どうかしたの、トア?」

「ボーっとしちゃって……もしかして、疲れているんじゃない?」


 突然、エステルとクラーラのふたりに話しかけられてハッと我に返る。


「ふ、ふたりとも!? いつの間に!?」

「だいぶ前から声をかけていたわよ?」

「それなのに全然反応しないから何事かと――あっ」


 トアの視線の先に女性がいると気づいたクラーラ。

 自然と表情が強張る。


「ふーん……そういうわけね」

「えっ? クラーラ?」

「エステル、ちょっとあっち見て」

「あっちって――あぁ……」

「いや、違うんだよ!」


 クラーラに続いてエステルが女性の存在を把握すると、途端にトアは大慌て。この調子だとあっという間に村中へ話題が広まりそうだと思っていたら、


「あの、すいません」


 その女性がトアたちへ声をかけてきたのだ。


「少しお尋ねしたいのですが、要塞村はこちらでよかったですか?」

「えぇ、ここが要塞村よ。あなたは見かけない顔だけど――」

「わあっ! 本物のエルフ族!」


 対応したクラーラを見た女性は、どうやらエルフ族を見たことがないらしく、クラーラを見て大興奮。この反応にクラーラ自身もまんざらではないらしく、初めて訪れるという要塞村の中をエステルとともに案内すると提案した。

 トアとしては、まだ村の見回りを終えていないので後ほど合流するという流れで一旦解散となった。


 ちょうど入れ違うタイミングで、トアのもとに珍しく慌てた様子でローザがやってきた。


「トアよ!」

「ローザさん? どうしたんですか、そんなに慌てて」

「なんだか妙な魔力を探知してのぅ。この近くから感じたのじゃが……お主、何か気づかなかったか?」

「みょ、妙な魔力……?」


 あの女性が要塞村に来てから、ローザが妙な魔力を探知したという。

 もしかしたら、女性と何か関係があるのかもしれないと、トアはローザを連れて村の案内をしているクラーラとエステルのもとへと急ぐのだった。







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スローライフな新作をはじめました!


【噛ませ王子は気ままな辺境暮らしを望む! ~悪役王子に転生した直後に追放されたので、田舎暮らしを楽しみます~】


https://kakuyomu.jp/works/16817330652651184226


是非、読んでみてください!


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