第574話 波に乗れ!

 日差しが厳しく、暑い日々が続くようになったセリウス王国。

 この日、トアはいつもの女子メンバー四人にフォルを連れて港町のパーベルへと足を運んでいた。


 目的は最近パーベルで流行っているという最新のレジャーを楽しむため。

 連日、村長として激務をこなすトアの姿を見た市場の責任者ナタリーや村医のケイスから、たまにはゆっくり休んできてくれと提案され、遊びに来たのだ。


「やあやあ、よく来てくれましたね、みなさん」

「お久しぶりです」


 トアたちのもとへやってきたのはパーベルのヘクター町長と秘書のマリアムだった。

 

「今日は最近うちの町で流行っている遊びをご紹介します。――では、まずはこちらを」

「これですか?」


 ヘクター町長がトアたちに渡していったのは、木を加工して作られた特殊な形状のボードであった。


「これを使って、南国にあるイワハという島国に伝わるサーフィンという遊びをします」

「「「「「「サーフィン?」」」」」」


 六人の声が見事に重なる。

 そこには、聞き覚えのない言葉への純粋な関心が込められていた。


「まずは実演してみましょう。――マリアム」

「はい」


 すでに水着となっているマリアムは自分専用のボードを手にすると、そのまま海の方へと駆けだしていく。


 そして――華麗な動作でボードに乗ると、そのまま波の上を優雅に滑っていく。


「「「「「「おおっ!!」」」」」」


 まるでダンスを踊っているかのようなマリアムの波さばきに、トアたちは声を揃えて驚き、自然に拍手が生まれていた。


「以上です。では、やってみましょう」

「いや、いきなりやれるものなんですか!?」


 自然な流れで実演してみようとなったが、さすがに情報がなさすぎると声をあげるトアであったが、


「なかなか難しいけど、コツを掴めばいけるわね!」

「わっふ~!」

「トアもやってみましょうよ!」


 クラーラ、マフレナ、エステルの三人は一発目からいきなり波を乗りこなしていた。三人とも、身体能力に自信があるのもあってか、マリアムほどスムーズではないがもうすでにそれに近い形となっていた。


 一方、女性陣で唯一波に乗り切れていないのがジャネットだった。


「うぅ……みなさんのようにはいきませんね……」

「大丈夫だよ、ジャネット。俺も似たようなものだから、一緒にやっていこう」

「ト、トアさん!」


 差し伸べられたとあの手を握り返すと、ジャネットは深呼吸をしてから再びボードを手に取った。それから、三人の様子をよく観察し、見様見真似でやってみると、


「っ! で、できました! できましたよ、トアさん!」

「うまいぞ、ジャネット!」


 元引きこもりの鋼姫ジャネットだが、さすがドワーフ族というだけあって身体能力は高めとなっている。だから、その気になって取り組めばすぐにできるだろうとトアは思っており、実際こうしてジャネットはあっという間に上達できたのだ。


 女子メンバーが全員楽しそうに遊んでいるのを見て、トアも本腰を入れてやろうとボードを手にした時、


「あれ? そういえば……フォルはどうしたんだ?」


 こういう場面で何も話さないというのもおかしいなと不審に感じて辺りを見回してみると、


「うん? あそこに妙な泡が……まさか!」


 トアの予感は的中――フォルはボードに乗るどころか重みに耐えかねて海の底に沈んでいたのだった。


 何はともあれ、村民たちの計らいによって海での遊びを満喫したトアたち。

 この日はとてもいいリフレッシュな一日となったのだった。

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