第572話 魔導鉄道、開通④ 最終報告
魔導列車に試乗し、セリウス王都へとやってきたトアたちは、そのままバーノン王へ報告に向かうことにした。
とはいえ、さすがに大勢で押しかけては迷惑だろうからと、城へ行くのはスタンレーとラウラ、そして要塞村を代表して村長のトアの三人に絞った。
セラノス城の廊下を歩いていると、たくさんの人がトアへ声をかけてくる。
「おや、いらっしゃいませ、トア村長」
「こんにちは」
「村長殿、また朝市にお邪魔いたします」
「いつでもいらしてください」
「村長さん、ケイス様はお元気でいらっしゃいますか?」
「めちゃくちゃ元気ですよ。この前はマフレナたちと一緒にイノシシ狩りへ行っていたみたいです」
初めて城に来た時は何かと緊張しっぱなしだったトアだが、最近ではそのような素振りを見せることもなくなった。以前から交流のあったバーノンが新しい王となったことも影響しているのだろう。
それでいて、要塞村にはそのバーノン王の弟であるケイスが村医として暮らしている。これもまた頼もしい限りだった。
国王の待つ王の間へと入っても、それは変わらない。
「トア村長、魔導列車に乗ったそうだな」
「はい。とても快適な旅でした。あれならきっと人気が出るはずですよ」
「君にそう言ってもらえるのはとても心強いな」
早速、魔導列車の感想をバーノン王へ伝えるトア。
魔導列車を使った鉄道計画は、国王にとって最大の目玉政策。
これにより人の流れや物流が活性化し、経済成長が見込めると睨んでいた。
実際、トアは鉄道を利用してその狙いが正しいと実感している。
――ただ、あの魔導列車の魅力はそれだけではない。
王都に到着するまでの間に見てきた美しい景観は、それを目的にしても十分価値があるとトアは感じていたのだ。
「国王陛下、魔導列車から見える景色はとても素晴らしく、観光業にも生かせるのではないかと思います」
「ほぉ……観光か」
トアの話に関心を持ったバーノンは、何かを閃いたらしくポンと手を叩いた。
「うむ。こうなったらやはり私自身が魔導列車に乗って体験をしなければならないな」
いつになくテンションの高いバーノン王。
やはり、自分が言い出した計画だけあって、ずっと気になっていたようだ。
「それでは、トア村長たちを要塞村へと送り届ける際に――」
「同行しよう」
バーノン王は食い気味についていくと即決する。こんなにノリノリな国王を見るのは初めてなのだろう。周りの騎士たちは困惑していた。
しかし、トアは前々からバーノン王のこうした無邪気さに勘づいていた。要塞村の収穫祭に参加した時は、好奇心旺盛な少年の顔になると知っていたのだ。
「さあ、すぐに支度をするぞ」
バーノン王は勢いよく部屋を出て、魔導列車に乗るための準備に取りかかった。
――その後、バーノン王と一緒に鉄道に乗り、改めてその完成度の高さ、そして景観の素晴らしさを実感し、観光業としても成立するという確信を得たトア。
国王もすっかりその気になり、各駅近くにある町村へその旨を伝えるべく、近々使者を送るという。
こうして、本格的に動きだした魔導鉄道。
セリウス王国にとって、この夏最大の注目を集めそうだ。
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