第571話 魔導鉄道、開通③ 試運転

 ついに列車を動かす時が来た。

 スタンレーの指示により、車掌を務める男性が原動力となる魔鉱石へと魔力を注いでいく。

 すると、


「おっ?」

「あっ! う、動いた!」


 トアよりも先にクラーラが興奮気味に叫ぶ。

一方、エステルは冷静に状況を分析していた。


「それにしても、随分とゆっくりね」

「発車直後はこれくらいですよ。徐々にスピードを上げていきますから」

「わふっ! 本当です! だんだん速くなってきました!」


 浮かぶ疑問に対して、ジャネットが解説役に回る。鉄道や駅の建設に直接かかわっている期間は短いものの、ドワーフ族としては非常に興味関心をそそられる内容であったため、個人的にいろいろと研究もしているようだった。


 森の中をひたすらに進む鉄道は、途中でいくつかの駅に停車。

 こちらもまだオープンはしておらず、形だけの状態だった。


「鉄道に馴染みないセリウス王国の人たちのため、線路近くには立ち入りを禁じるために魔法結界を展開する予定でいます」

「それがよさそうですね」


 セリウスの民だけでなく、他国から来た者にとっても、鉄道は初めて見るという者がほとんどだろう。それを考慮すると、スタンレーの言う対処法は必然と言えた。


 鉄道の機能としては、長距離を短時間で移動できるというメリットに注目が集まる。

 ローザの使い魔や二頭のドラゴンが暮らす要塞村ではあまり問題視されていなかった長距離移動だが、一般の人々からすると非常にありがたい存在となるだろう。

 何より、トアたちを引きつけたのは列車の窓から見える景色だった。


 彼らが長い距離を移動する際は、空を移動することが多い。さらに、一切の障害物がないため、移動時間も列車よりずっと早かった。


 しかし、窓から眺める景色はまったく違う。

 空での移動はほとんど景色を楽しむことができないが、こちらでは目線が地上に近い分、移り行く景色を存分に満喫することができた。


「どうですか、トア村長」

「いや、凄いですよ! こうやって外を眺めるって目的だけでも鉄道を利用したくなってきます!」

「ははは、それは最高の誉め言葉ですよ」


 スタンレーはこの「風景を楽しむ」というポイントを鉄道のひとつの売りにしようと考えているという。今は初夏ということもあって爽やかな景色だが、これが秋、冬、春と季節が巡ることで四季折々の変化を堪能できると睨んでいたのだ。


 トアは、きっとスタンレーの狙いは成功するだろうと思っていた。

 それほどまでに鉄道の旅は楽しめたのだ。


 列車はそのまま進み、とうとう終点であるセリウス王都へと到着。


「あれ? もう終わり?」

「あっという間だったわね」

「わふぅ……もっと乗っていたかったです」

「その感想が出てくるだけで、鉄道の設置は大成功ですね」


 女性陣は初めての鉄道に大満足の様子。

 一方、トアも魔導鉄道に無限の可能性を見出していた。


「さすがですね、スタンレーさん」

「そう言っていただけて光栄ですよ」


 トアはスタンレーと握手を交わし、列車をおりる。

 魔導鉄道はセリウス王国の繁栄をさらに強固なものとしていくだろう――トアはそう強く思うのだった。

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