第569話 魔導鉄道、開通① 完成

 ある日の午後。

 要塞村をふたりの人物が訪ねてきた。

 

「お久しぶりです、トア村長」

「どうも」

「あれ? スタンレーさんにラウラさん?」


 やってきたのはバーノン王の命を受けて国内を走る魔導鉄道の準備を進めているスタンレーとラウラだった。

 魔導鉄道の件は、トアもかなり前からかかわりを持っている。

 バーノンが新しい国王となった際、国政の目玉として取り組まれているが、計画自体はその前から存在しており、スタンレーやラウラは要塞村に駅を作りたいと要望を出していた。


 かつてここには凶悪なモンスターが存在し、「屍の森」と呼ばれ、人の寄りつかなかった場所であった。しかし、要塞村ができて種族問わずたくさんの村民が生活するようになると状況が一変し、今では「希望の森」とまで呼ばれるようになった。


 森に出現するモンスターの数が激減したあたりから、鉄道の準備はその速度を上げ、そしてついに――


「このたび、魔導鉄道をスタートする準備が整いましたので、お知らせに来ました」

「えっ! 本当ですか!」

「はい。それで、完成を記念した祝賀会をセリウス城で行う予定なのですが、ぜひともトア村長に参加していただきたいのです」

「お、俺に? でも、俺なんかが行っていいんですか?」


 トアとしては実際に工事などでかかわったことがほとんどないため、祝賀会への招待は予想外だった。

 

 しかし、現場で働いてきたスタンレーやラウラはまったく異なる意見を持っていた。


「何をおっしゃる。トア村長がいてくれたからこそ、魔導鉄道は完成したのですよ」

「もともと、魔力で走る鉄道のアイディアは要塞村で見つかったわけですし」

「あっ」


 ラウラの言葉を聞き、「そういえば」と過去を思い出す。

 そもそもこの要塞村は旧帝国が世界大戦時の切り札として用意したもの。しかし、実際にはその力を存分に発揮する間もなく旧帝国は連合軍を相手に敗戦。要塞は無用の長物としてこの森に取り残されたままであった。


 その要塞をトアのジョブが持つ能力で改修し、村へと姿を変えたのが現在の要塞村になるわけだが――この要塞にはまだまだ隠された秘密があった。


 そのひとつが地下迷宮である。

 かつて、旧帝国が魔法兵器の開発や実験を行っていたエリアであり、今ではシャウナをトップとする調査チームが作られ、今も地下遺跡と一緒に調べが進められていた。


 魔導列車の技術は、その地下迷宮で発見されたもの。

 つまり、トアのジョブがなければそもそも発見されなかったのだ。


「国王陛下もあなたには大変感謝しています。トア村長がいなかったら、この国のさらなる発展はなかっただろうと」

「そ、それはいくらなんでも大袈裟すぎですよ」


 メガネを光らせて語るスタンレーの熱量にトアは思わずたじろいでしまう。

 だが、自分の能力が国の発展に役立ったというなら、それはそれでとても喜ばしいことだとトアは素直に喜んだ。


「そうだ。完成した鉄道をご覧になりますか?」

「えっ? 見に行って大丈夫なんですか?」

「問題ありません。なんなら、エステルさんやクラーラさんを誘ってきても大丈夫ですよ」

「本当ですか!? すぐに声をかけてきます!」


 これから国の産業を支えることになる魔導鉄道。

 その実物を見に行くため、トアはエステルたちを捜しに駆けだすのだった。





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