第562話 クラーラの新しい力⑥ 明かされる大剣の過去

 アルディに案内された場所はオーレムの森の最奥部。

 そこは聖域と呼ばれている場所で、普段は立ち入りを禁じている。


「い、いいんですか……俺たちが入っちゃって」

「問題ない。君たちのおかげで、我らは種族として大きく成長できた」

「成長?」


 村づくりに専念しているトアには、エルフ族の成長に貢献しているという実感がなかった。

 しかし、アルディをはじめとするオーレムで生活するエルフの多くは、トアたち要塞村の存在に感謝していた。


「要塞村との交流で、この森の若者たちはこれまでになかった考えを持つようになった。以前なら考えられないことだな。……もう少し早くこうなっていれば、テスタロッサにも違った未来があったかもしれないが」


 かつてこの森で暮らしていた八極のひとり――死境のテスタロッサについて語る時、アルディの表情が一瞬曇った。

 トアはローザを経由して事情を知っているが、その場にいた者にしか分からない感情というものがあるのだろう。アルディの様子の変化に、クラーラやエステルたちも動揺で思わず足が止まる。

 それに気づいたアルディは「すまない」とだけ謝り、さらに奥へと進んでいく。

 やがて、トアたちの前に周りの木々よりふた回り以上は大きい巨木が姿を現した。


「こ、こんな大きな木があったなんて……」


 長いことオーレムの森で暮らしているクラーラでさえ、この木の存在は知らなかったらしく驚きを隠せないでいた。



 その時――トアの全身を覆う魔力がにわかにその力を増す。

 彼の魔力の根源は、要塞村を支える神樹ヴェキラから注がれるもの。それが反応をしているということは、


「あれも……神樹なのか?」


 魔力の高鳴りは、同胞を発見したからなのか。

 同じではなくても、限りなく近い存在ではないか――神樹ヴェキラの魔力はトアにそれを伝えているような気がした。

 アルディに尋ねてみるが、そのような事実は伝わっていないのだという。


「ここは、今から千年ほど前に我々の先祖が発見したと伝えられている。ただ、それ以外の情報については何ひとつ残されていない」

「でも、それなら可能性はあるわよね」

「ま、まあ、それはそうだが」


 クラーラの言葉にたじろぐアルディ。

 前向きというか、なんというか――そう言いたげな表情だった。それから「コホン」と咳払いを挟み、空気を変えてからアルディは巨木の根の部分を指さす。


「神鉱石があるのは――あそこだ」


 複雑に入り組んだ根の一部には隙間があった。その先にはまだ空間が広がっているようで、目的の神鉱石はそこにあるようだ。


「あそこは別名・審判の間――近年あそこに足を踏み込んだのは私の父のみと言われている」

「アルディさんのお父さんってことは……」

「私のおじいちゃん!?」

「そうだ。おまえが生まれた時に祝いの品として新鉱石を持ってきたらしい。それをもとにしてあの剣を作ったのはテスタロッサだが」

「そ、そんな経緯があったんですね……」

 

 またしても明らかになるクラーラ愛用の大剣にまつわる逸話。

 あらゆる人の想いが込められた剣だったということが分かり、ますます作り直さなくてはという気持ちが強くなる。


 トア、クラーラ、エステル、ジャネット、マフレナ、フォル――いつものメンバーで、オーレムの森の秘密に挑む。

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