第559話 クラーラの新しい力③ 涙の理由

 愛用していた大剣が真っ二つに折れてしまったクラーラ。

 トアたちはエノドアの町長であるレナードに報告を済ませてエルフ族のケーキ屋へと迎えに行ったのだが――そこで目の当たりにしたのは大号泣しているクラーラの姿であった。


「ま、まさかここまでのダメージを負っているとは……」


 いつも勇敢で、村の危機にはどんな相手だろうと真っ向から勝負を挑んで救ってきた。そんなクラーラは村の子どもたち――特に同性の女の子からは憧れに近い存在となっていたのだ。


 そんなクラーラが、人の目もはばからず大号泣している。

 要塞村組よりも付き合いが長いセドリックたちでさえ、ここまで動揺しているクラーラを見るのは初めてだという。


「クラーラさんがここまで取り乱すのは……テスタロッサさんがオーレムの森を出て行った時以来ですね」

「そ、そんなに……?」


 大泣きするクラーラを見つめながら、メリッサがそう告げる。

 テスタロッサといえば、ローザやシャウナと同じ八極のひとり――つまり、世界を帝国の脅威から救った英雄のひとりだ。

 同時に、クラーラからすれば剣術を教えてくれた師匠でもあった。


 そんな彼女は禁忌とされている蘇生魔法に手を出し、死んでしまった人間の恋人をよみがえらせようとした――が、失敗に終わってダークエルフとなり、森の掟として追放処分となってしまった。


 あの剣には、そのテスタロッサとの思い出が詰まっているのだろう。

 泣き続けるクラーラに、ジャネットが歩み寄っていく。


「クラーラさん……その大剣は私が直してみせます」


 胸を叩いたジャネット。

 彼女の父親である鉄腕のガドゲルは、死境のテスタロッサと同じく八極に名を連ねる英雄のひとりだ。

 戦闘能力もさることながら、ドワーフ族であるガドゲルは鍛冶職人としても仲間を支えてきた。今では鋼の山に巨大な工房を構え、同じドワーフ族たちとともに暮らし、後進の育成に尽力している。


 そのガドゲルの娘であるジャネットも、鍛冶職人としては相当の腕前であり、鋼の山のドワーフたちからは鋼姫という異名で呼ばれていたほどだ。


 実際、彼女の代表作であるトアの聖剣エンディバルは、神樹ヴェキラの放つ金色の魔力を有効活用でき、トアにとって大きな助けとなっている。


 ジャネットにとって、クラーラは大親友だ。

 自分の持てるすべてをかけて、彼女は折れた大剣を直そうと呼びかけた――が、クラーラからなかなか返事がない。


「クラーラ?」


 心配になって、トアやエステル、マフレナも近づいて様子をうかがう。

 項垂れたクラーラは、ゆっくりと顔を上げると、ジャネットやトアたちに向かって深刻な状況を語り始めた。


「この剣は……普通の魔鉱石じゃ直せないの」

「えっ? 魔鉱石?」


 どうやら、ジャネットの鍛冶職人としての腕前に問題があるわけではなく、修復に使う魔鉱石に問題があるらしい。


 とりあえず、より詳しい話を聞くために一度要塞村へ戻ることとなった。

 果たして、クラーラの語る大剣の秘密とは――


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