第558話 クラーラの新しい力② レナード町長への報告

 エノドア鉱山に出現したモンスターを撃破したトアたち一行は、事態の報告を行うため町長であるレナード・ファグナスの家を訪れていた。

 来訪したのはトア、エステル、マフレナ、ジャネットの四人にエノドア自警団に所属するクレイブ、エドガー、ネリスの計六人だ。


「今回の件について、君たち要塞村の面々には本当にどれほどお礼を言ったらいいか」

「気にしないでください。持ちつ持たれつってヤツですよ」

「そう言ってもらえると助かります――けど、クラーラさんの剣については……」


 やはり、レナードが気にかけているのはそこだった。

 クラーラの愛用する大剣。

 それは、彼女という存在を象徴するアイテムのひとつ。相当愛着があるらしく、手入れも欠かさず毎日やっていた――《大剣豪》のジョブを持つクラーラにとって、剣とはまさに己の命に匹敵する大切な物なのだ。


 本来であれば、要塞村には優秀なドワーフ族が大勢いるし、八極のひとりに名を連ねるガドゲルの娘・ジャネットがいる。彼女に手にかかれば、簡単に修復できるはずだが、そう簡単に事態は収束しそうにない。


 現在、クラーラは同じエルフ族のルイス&メリッサの姉妹が経営するケーキ屋にいる。

 相当ショックを受けているようで、「少し冷静になりたい」と自ら申し出てそちらの店に足を運んでいた。トアたちも、この報告が終わったら全員で訪問する予定になっている。


「クラーラには悪いことをしてしまった……俺たちが不甲斐ないばかりに」

「面目ねぇ……」

「なんと言っていいか……」


 落ち込んでいるのはエノドア自警団の三人組だ。

 フェルネンド王国聖騎隊に在籍していた頃から優秀で、エノドア自警団に転職してからも負け知らずだった三人にとって、今回ほど手を焼いた相手はいない。


「あなたたちのせいじゃないわ。実際、あのモンスターはかなり強敵だったし」


 すかさずフォローを入れるエステル。

 同期である彼女は三人の実力をよく知っているし、エノドア移住後も鍛錬を続けていた努力家であることも把握している。要塞村組としても、マフレナが本気の金狼状態にならなければやられていたかもしれないくらい強かったのだ。


「修復自体は問題ないでしょうから、私が声をかけてみます」


 そう切りだしたのはジャネットだった。

 確かに、彼女の腕ならば折れる前の状態に限りなく近づけることは可能だろう。

 気がかりなのは、それを知っていながらも落ち込んでいるクラーラの態度だ。まるでもう二度と元通りにはならないと確信しているかのような落胆ぶりに、トアは違和感さえ覚えた。


「もしかしたら……あの大剣には何か秘密があるのかも」

「わふっ! それならクラーラちゃんが落ち込む理由も分かります!」


 マフレナの言う通りだ、とトアは続けた。


 初めて会った時から常に持ち歩いているあの剣には、相当な思い入れがある――そう判断したトアは、改めてクラーラに話を聞こうと立ち上がる。



 レナードに別れを告げ、屋敷を出たトアたちは一路エルフ族のケーキ屋を目指す。

 いつも通りのケーキ屋――と思いきや、表の看板にはまだ明るい時間帯でありながら「本日閉店」の看板が。どうやら、クラーラのコンディションは想定以上に悪いらしい。


「おーい、ちょっといいかな」


 店のドアを開けて中へ入ると、


「うあああああああああああああん!」


 大号泣しているクラーラと、それを必死になだめているルイスとメリッサ、そしてセドリックの三人。


 状況は本当に大変なこととなっていた。

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