第557話 クラーラの新しい力① 激闘の末に

 その日、エノドア自警団に所属するタマキから緊急の報告があった。

 なんでも、エノドア鉱山に強力なモンスターが出現したらしく、自警団の面々が対応しているが、それだけでは戦力不足なので加勢をしてほしいのだという。


 エノドア自警団にはトアやエステルの同期であるクレイブ、エドガー、ネリス、そして元上司であるヘルミーナも在籍している。

 四人の実力を知るトアは、それでも苦戦を強いられているという現状を聞き、相当強いモンスターであると判断して自らはもちろん、クラーラやマフレナなど主力を連れてエノドア鉱山へと向かった。


 エノドア鉱山に出現したモンスターは、巨大な岩石を人型に削ったような姿をしていた。そいつは魔鉱石をエサにしているらしく、エノドア鉱山で採掘される上質な魔鉱石を食らってさらに力をつけていった。


 さすがのクレイブたちでも手がつけられないほど強大に成長したが、クラーラの剣術やマフレナの格闘術、さらに神樹の加護を受けるトアの聖剣が放つ魔法により大ダメージを負って動きが鈍くなった。


「あとひと息ね!」


 勝利を確信するクラーラは、自分の身長に匹敵する愛用の大剣を手にトドメを刺そうと突っ込んでいく。

 ――が、敵にはまだ切り札があった。


「があああああああっ!」


 向かってくるクラーラに、モンスターは自らの腕を取り外して投げつけたのだ。


「なっ!?」


 予想外の攻撃に焦ったクラーラは、大剣をかざしてなんとか直撃を避ける。

 ――が、次の瞬間、


 ガギン!


 鈍い音とともに、クラーラ愛用の大剣が真っ二つにへし折れた。


「そ、そんな……」


 ダメージよりも、クラーラは剣がへし折れたことにショックを受けてへたり込んでしまう。


「クラーラちゃん!」


 思わぬダメージを負ったクラーラを助けるため、マフレナは金狼へと変身。巨体を誇るモンスターの一撃を軽々と受け止めると、カウンターに強烈な蹴りを叩き込む。途端に、吸収した魔鉱石で覆われた頑丈なボディがバラバラに砕け散った。


 エノドア鉱山を危機に陥れた厄介なモンスターを撃破したものの、その場には重苦しい沈黙が流れる。


 無理もない。


 へし折れた愛用の大剣を前に、クラーラは未だショックから立ち直れておらず、ジッと剣を眺めたままだった。


「ク、クラーラ……」


 トアにとって、要塞村の村民としてはフォルと並んでもっとも古い付き合いになるクラーラだが、彼女がここまで落ち込んでいる姿を見るのは初めてでどう声をかけたらいいのか分からずにいた。

 それはその場に居合わせたマフレナたちも同じであり、まるで時が止まったかのように誰も声を出さないし、動きだせずにいた。


 しばらくしてようやくトアがクラーラへと歩み寄り、そっと肩に手を添える。

 それに反応して振り返ったクラーラの美しい青い瞳には、大粒の涙が浮かんでいたのだった。

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