第556話 謎の未確認生物、現る?【後編】

 銀狼族の少年が目撃したという白い巨人を捜して、トアたちは希望の森へと入り調査を始めた。


「でも、手がかりなしで見つかるのかしら」

「やっぱり、フォルのサーチ機能で捜した方が手っ取り早いんじゃない?」


 エステルとクラーラはフォルの力で早期解決を狙うが、そんなふたりに対してフォルは人差し指を「チッチッチ」と振りながら、


「それではロマンがないのですよ」


 とため息交じりに告げる。


「ロマンって……何がどうロマンなのよ?」

「正体不明の生物を追い求めて森をさまよい歩く……わずかな草木の揺れにさえ過敏に反応して緊張感を楽しむんですよ」

「それ……楽しいの?」

「ロマンですからね」

「最初に戻ったわよ!?」


 いつものやりとりを眺めつつ、トアはフォルの言うことが少しだけ理解できた。

 やはり、誰にも見つけられていない存在を発見するというのは、それ自体にとても面白みがある。実際、トアの胸は白い巨人というワードだけでずっと高鳴り続けていた。これは男子特有の感覚かもしれない。


 そんなことを思いながら歩を進めていくと、


「わふっ!? トア様!?」


 何かを発見したマフレナが叫ぶ。

 すると、視線の先には逃げるように森の奥へと走っていく全身真っ白な体毛で覆われた人型の生物が。かなり距離があるためハッキリとしたことは分からないが、その大きさは明らかに人間のそれを越えていた。


「う、嘘!? 本当にいた!?」

「追いかけましょう!」


 驚きに足が止まるクラーラの横から、ジャネットが冷静に指示を飛ばす。

 トアたちは見失わないように大急ぎで後を追っていく。


 やがて、高い岩壁に行く手を阻まれた白い巨人はその足を止めた。


「わふっ! 追い詰めました!」


 マフレナが一歩踏み出して白い巨人へと迫る。

 そこで初めて気がついたのだが、この白い巨人は――


「獣人族とはちょっと違う?」


 ゆうに二メートルを越える巨躯を持つ白い巨人は、パッと見ると猿の獣人族のようだがところどころ違う点がある。何より、体毛が真っ白という点が大きく異なっていた。

 その時、


「あれはもしや――伝説の雪男では!?」


 突然フォルが叫んだ。

 

「ゆ、雪男?」

「メリカ大陸ではビッグフットとも言われているモンスターです」

「モ、モンスターですって!?」


 すぐさまクラーラは臨戦態勢を取るが、フォルは彼女をなだめながら説明を続ける。


「見た目こそ狂暴そうですが、おとなしくてこちらから危害を加えなければ何もしてきませんので安心してください」


 フォルの言う通り、雪男は怯えたように身を縮こまらせているが、襲ってくる気配は微塵もなかった。


「恐らく、なんらかの理由で故郷の雪山から遠く離れてしまったのでしょう」

「なら、元の住処へ帰してあげた方がいいわね」


 エステルの言葉に、全員が頷いた。



 こうして、要塞村にひと騒動を持ち込んだ雪男は、要塞村に暮らすドラゴン・シロの背中に乗って故郷の雪山へと戻っていった。

 これにより、喧嘩をしていた銀狼族と王虎族の少年も無事仲直りし、事件は一件落着となったのである。


「いやぁ、それにしてもまさか雪男とはねぇ」

「…………」

「? どうかしたの、クラーラ」

「っ! う、うぅん! なんでもないわ!」


 トアからの質問にそう答えるクラーラ――だが、これが次のトラブルを招く前兆だとは、この時クラーラ自身でさえ想像していなかったのである。

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