第555話 謎の未確認生物、現る?【前編】
「そんなの嘘に決まっている!」
「ホントなんだって!」
ある日の要塞村。
朝市の時間帯が終わり、昼前の穏やかな時間が流れる――はずだったのだが、銀狼族の少年と王虎族の少年が何やら言い争いをしている。
「どうしたんだ、ふたりとも」
マフレナからふたりがケンカをしていると報告を受けたトアは仲裁に入る。
話を聞いてみると、
「こいつが狩りの途中で真っ白い巨人を見たっていうんだ。そんなヤツいるわけないのに」
「いたんだよ! 俺は見たんだ!」
どうやら、銀狼族の少年は希望の森で全身真っ白の巨人を見たらしい。
だが、そんな巨人族などいるはずがないと王虎族の少年が主張しているのだ。
「真っ白い巨人族……」
トアの脳裏に浮かんだのは、八極のひとりである赤鼻のアバランチであった。彼も規格外の存在であるとはいえ、同じ巨人族であり、かつてこの要塞村へやってきたことがある。そのアバランチは白い髭を蓄えており、彼が再びここを訪れたというなら、それを見間違えた可能性はないだろうか。
だが、銀狼族の少年は全身が真っ白と証言している。
アバランチはその特徴に合わないため、候補から外れた。
とはいえ、銀狼族の少年が嘘を言っているとも思えなかった。
そこで、トアはある解決策を提案する。
「それなら、その真っ白な巨人族が何者なのか――確かめてみよう」
「「えっ?」」
言い争いをしていたふたりの少年は顔を見合わせる。
だが、トアは本気でその巨人族を捜索するため、要塞村に暮らす村民たちへ協力を要請したのだった。
まず名乗りをあげたのはシャウナだ。
「私の使い魔で周辺を調べさせよう」
黒蛇族である彼女は、使い魔として無数の蛇を従えている。その蛇たちを希望の森へと放って捜そうというのだ。
さらに、ここへローザが参戦を表明。
同じく使い魔である怪鳥ラルゲをありったけ呼び集め、上空から怪しい者が希望の森にいないか捜させようというのだ。
八極ふたりが本気で捜索に乗りだしたことをきっかけに、他の村民たちも白い巨人族を捜して希望の森へと足を踏み入れていく。
「なんていうか……この手のイベントが好きな人多いわよね、この村は」
呆れたように呟くのはクラーラだった。
「というか、あんたのサーチ機能で森を捜せばすぐに見つかるんじゃないの?」
「クラーラ様……それでは風情がないんですよ」
「知らないわよ」
確かに、フォルのサーチ機能は優秀なので、まだこの森にとどまっているとしたらすぐに見つかるのだろうが、トアとしてはそれを切り札として取っておきたい考えだ。
何より、村民たちが楽しそうにあっちへこっちへ白い巨人族を捜している様子を見ると、そう簡単に決着をつけるわけにもいかなかった。
「さて、俺たちもそろそろ出ようか」
「でしたら、エステル様とジャネット様も呼んできます」
「わふっ! みんなで捜したらきっと楽しいですよ!」
「楽しさを求めるものなのかしら……」
クラーラの疑問はさておき、謎の白い巨人族を捜索するため、トアたちも希望の森へと足を踏み入れるのだった。
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