第548話 決意の朝

 ローザからの言葉を受けたトア。

 あれから数日――そのことをずっと考えているうちに、それぞれの種族が故郷へ里帰りする日を迎えた。


「じゃあ、行ってくるわね」

「わふっ! お土産を持ってきます!」

「私たちも、何か役に立ちそうな物があれば持ってきます」

「そんな気にしなくていいよ」


 クラーラはオーレムの森へ、マフレナはかつて住んでいた地へ、ジャネットは鋼の山へ――それぞれ以前住んでいた地に一週間ほど滞在する予定となっている。


 各種族がいなくなると、要塞村はガランと寂しくなった。

 この頃になると、要塞村にある市場も年末の短縮営業となり、いつもの活気がなくなっていた。訪れる客の数も減り、のんびりとした空気が流れていた。


「ホントに……この時期は寂しくなるね」

「あぁ……」


 トアとエステルは聖樹近くのベンチに腰を下ろして村の様子を眺める。

 今回、マフレナたち銀狼族から火山噴火でなくなった仲間たちのために慰霊碑をたてたいと相談を持ちかけられ、助っ人にフォルをつけた。そのため、例年以上に寂しさを感じる年末となっていたのだ。


 ふたりでまったり過ごしていると、


「ねぇ、トア」

「うん?」

「ローザさんになんて言われたの?」

「っ!?」


 エステルはトアとローザが何か重大な話をしていたことを知っていた。いつもならなんでも話してくれるトアがその件をずっと黙っていたため、この機に尋ねてみたのだ。


「その反応は……私やみんなには話しづらい内容ってわけね」

「い、いや、えっと……」


 すべてお見通しと言わんばかりにドヤ顔でトアに迫るエステル。どうやら、これ以上隠し通すのは難しい――そう判断したトアは、観念してすべてを包み隠さず話した。


「やっぱり……私も前々からずっと気にしてはいたの」

「エステルも?」

「えぇ。……トアは、私がこの村に初めて来たときのことを覚えている?」

「もちろん!」


 トアとエステルは、悲しいすれ違いによって一時期離れ離れとなっていた。

 フェルネンド王国の大貴族であるディオニスの策により、エステルは危うく政略結婚させられそうになった。トアはディオニスが買収し、記事を作らせた新聞を見て衝撃を受けると、そのまま聖騎隊を去ってこの要塞を発見したのだ。

 その後、国を出たエステルは紆余曲折を経て要塞村へとたどり着き、今に至る。


「懐かしいなぁ……」

「あの時、私は心底驚いたのよ?」

「まあ……俺はあんまり村長ってガラじゃないからね」

「そうじゃなくて――この村ではいろんな種族が仲良く協力し合って暮らしている、とっても素敵な村だなって」

「エステル……」


 どこか悲しげに映るエステルの表情。

 それを目の当たりにしたトアは大きく深呼吸をしてから急に立ち上がる。


「ど、どうしたの?」

「いや……いろいろと決心を固めなくちゃなって思って」

「決心?」

「あぁ――エステル」

「うん?」

「待っていてくれ」

「……分かった」


 エステルは短くそう告げると、優しげに微笑むのだった。

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