第547話 要塞村の大掃除と大事な話【後編】

 大掃除中、ローザに呼びだされたトア。

 その内容はいつもと様子が違っていた。


「きゅ、急にどうしたんですか? いつものローザさんらしくありませんよ?」

「それはそれで引っかかる言い方じゃが……まあ、この際それはどうでもよい。ワシが言いたいのは、お主のこれからじゃ」

「これから?」


 先ほど、ローザは『要塞村がなぜこうも平和なのか……それはお主がいるからじゃ』と言っていた。恐らく、たった今ローザが口にした『お主のこれから』というのはそれに関連したことだろう。


「これからというのは……」

「見て分かるように、この要塞村の村民の多くは――人間ではなく、長寿で知られるエルフやドワーフ、銀狼族をはじめとする獣人族などじゃ」

「そ、それは……」


 ここまでの話を聞いて、トアはローザの言いたいことを察する。

 だが、なぜ急にこんな話題を持ってきたのか。その理由については皆目見当もつかなかったが、それについてはローザ本人の口から真相が語られる。


「先日の収穫祭で、バーノン王がワシに相談してきてな」

「バーノン王が?」

「うむ。この要塞村の素晴らしさがこれからも続けていくためには、彼の後継者が必要だろうと言っていた」

「後継者……」


 それはつまり――トアが亡くなった後の要塞村について、バーノン王は危惧しているということだろう。


 要塞村にはさまざまな種族が暮らしている。

 クラーラやエステルのように、戦闘に特化した者もいれば、ジャネットのように技術面に秀でた才能を持った者もいる。あらゆる部門で優れた村民が多く、その戦力はすでに一国の軍事力を遥かに凌駕していた。


 言い換えれば、要塞村の面々がその気になれば、一国を制圧することなど容易なのだ。

 しかし、そのようなマネはせず、平和に日々を過ごしているのは――間違いなく、トアが村長をやっているからだ。

 

 バーノン王は二年連続で訪れた収穫祭での様子を見て、それを痛感する。少なくとも、トアの意志を受け継ぐ後継者が現れなければ、これだけの力を国家が野放しにしておくことはできないだろう。


 ただ、バーノン王としては要塞村を今のままの形で継続させたいという考えもあった。

 そのため、八極のひとりであるローザに相談を持ちかけたのだ。


「まあ、いろいろとやるべきことはあるが……お主がその気になれば、ワシと同じように命を長らえさせることができる」

「ローザさんのように……」


 かつて、英雄と呼ばれた枯れ泉の魔女であるローザ。

 彼女は人間でありながら、三百年という長い年月を生き、それでもなお衰える気配がない。

 そんな彼女が、自分と同じように長命となれる方法をトアに伝授するという。


「…………」


 トアは即答できなかった。

 心情的には、すぐにでも返事をしたいところだが、自分の独断で返事をしていいものかどうか悩んでいたのだ。

 それについて、ローザがさらに付け足す。


「あの四人との関係についても……もう少し踏み込んでいいのではないかのぅ」

「えっ?」


 それは、クラーラ、エステル、マフレナ、ジャネットとの関係についてだろう。

 先ほどローザは後継者と口にした。

 その際、トアの頭に浮かんできたのは――自分の子どもの存在だった。ローザは後継ぎについて、トアと四人の間にできた子どもも視野に入れているようだ。


「まあ……お主もまだ十八歳。一年くらいは猶予があるじゃろう」

「……分かりました。それまでに結論を出します」

「うむ。それと、お主が長寿の道を選んだ場合のことを想定し、この件はエステルにも報告をしておく。あの子だけ仲間外れになってはかわいそうじゃからな」

「はい。お願いします」


 要塞村が誕生し、来年で六年目を迎える。

 当時十四歳で村長になったトアも、二十歳になるのだ。


 六年目を迎える要塞村は大きく動く。

 そんな予感を感じさせる大掃除となった。




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