第546話 要塞村の大掃除と大事な話【前編】
各種族の里帰りを前に、要塞村では毎年恒例の大掃除が始まろうとしていた。
数日前から円卓の間にて各種族の代表者が集まり、場所の分担を決定。
人数は増えたものの、要塞村のサイズからして、一日ではとてもじゃないが終われない――そこで、二日間にわたって行われることになった。
「さて、それじゃあ順番に取りかかるとしよう」
トアの号令により、朝早くから始まった大掃除。
要塞内部の掃除は天井の高さも考慮して、身体能力の勝る獣人族たちに任せる。
それ以外は適材適所――それぞれが普段仕事場や生活の拠点として利用している場所を中心に掃除を行うことに。
「ったく……別に掃除なんてしなくてもいいでしょうに」
「リラエル殿の部屋はさすがにそのままというわけには……」
「こ、これは天使流なのよ! 天界に住む天使の住まいは大体こんなものなのよ!」
「それは風評被害でありますよ……」
中庭にある小屋で暮らす天使リラエルと魔人族のメディーナも、協力して掃除に取りか狩り始めた。
「掃除はいつも使用人たちに任せていたので新鮮な感じです」
ヒノモト王国のツバキ姫も、積極的に掃除に参加していた。
さすがに王家の人間であるため、大掃除はさせられないと思っていたが、本人たっての希望によりこうして手伝ってくれている。
彼女たちの他にも、要塞村に暮らす人々は収穫祭同様に毎年恒例となっている大掃除を楽しみながらやっている。
一年間、自分たちの生活の中心となってくれていた要塞村と、その要塞村を支えてくれている神樹ヴェキラへ感謝を込めての大掃除――誰もが積極的に取り組むはずだ。
「さて、私たちは地下迷宮へと行きますか」
「そうしましょう」
クラーラとフォルは掃除道具を手にすると、シャウナが指揮する地下迷宮へと向かっていった。エステルはメルビンをはじめとするモンスターたちと、いつも子どもたちに勉強を教えている要塞村の図書館を、ジャネットは仕事場である工房を、マフレナは他の銀狼族たちと一緒に共同浴場を担当し、すでに掃除を始めている。
「俺は……神樹の様子を見てくるか」
内部もそうだが、神樹もまたその魔力で要塞村やトアを支えてくれた。
そのお礼も兼ねて、トアは神樹の手入れをするために近づいていく。神樹の掃除に関しては毎年トアの役割として定着しているのだ。
――が、今年は先客がいた。
「遅かったではないか、トアよ」
「ローザさん?」
そこには、珍しく神妙な面持ちをしたローザの姿があった。
いつもとは違う。
目が合った瞬間、トアはそれを直感する。
「何かありましたか?」
「お主に……話をしておきたいことがあってな」
「話をしたいこと?」
それがとても真面目な話であることは、声の調子ですぐに理解した。
「……この要塞村に関することなんですね」
「ほぉ、そこまで読めたか」
「いつもと雰囲気が全然違いますからね」
「む? そうかのぅ……」
ローザは納得していないようだが、トアからすれば実に分かりやすい変化だった。
「まあ、よい。それよりも本題じゃが……こっちへ来い」
指示されるまま、トアはローザのもとへ。
神樹の近くにあるそれは少し小高い位置にあり、村の様子を眺めることができた。そこから見える光景は――要塞村の村民たちが一生懸命に掃除をしている姿であった。
「あの、これが一体……」
「要塞村がなぜこうも平和なのか……それはお主がいるからじゃ」
「えっ?」
真正面からそう言われて、思わず変な声が出る。
だが、それと同時にトアは察する。
ローザが何を言おうとしているかを。
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