第545話 話題沸騰? 要塞村のお土産品

 寒さが厳しくなってきた年の瀬の要塞村。

 毎年、年末になると要塞村に暮らしている各種族はそれぞれの故郷に数日間戻ることが恒例になっていた。


 エルフのクラーラはオーレムの森へ。

 ドワーフのジャネットは鋼の山へ。

 銀狼族のマフレナは火山噴火の影響で亡くなった同族たちの墓参りも兼ねて大陸南部にあるもとの故郷へ。


 今はその旅に向けた準備を村長室でしていたのだが、


「要塞村の名物って何かしら?」


 ふと、クラーラがそんなことを口にする。


「名物?」

「そう。ほら、エノドアには魔鉱石があるし、パーベルには海の幸がある」

「なるほど……クラーラ様のおっしゃることにも一理あります」


 トアとクラーラの間に、フォルが割って入った。

 さらに、エステル、マフレナ、ジャネットの三人がこの話題に加わった。


「どういうこと、フォル」

「要塞村で作られる品々はどれも一級品です」

「わふっ! ジャネットちゃんの作ったアイテムも好評です!」

「トアさんが素敵な工房を造ってくれたおかげですよ」

「そこなんですよ」


 ほんわかムードだった会話に、フォルが一石を投じる。


「……確かに、エノドアやパーベルのような、尖った武器がないわね」

「いや、魔鉱石や魚介類は尖った武器なのか?」


 あたかも名推理のように語るエステルに、トアの冷静なツッコミは届いていなかった。しかし、話題を振ったクラーラには理解できたようで、「うんうん」と頷いている。


「要塞村名物土産……何かあれば、それを持っていけるんだけど」

「これをもらったら、『要塞村に行きました』っていう証みたいなものでしょうか」

「わふぅ……他の村にはない要塞村だけの特徴というと……」


 全員揃って「うーん」と唸る。

 最初は冗談半分に聞いていたトアであったが、次第に本気で考えるようになっていた。


「要塞村ならではのオリジナリティといえば……やはりアレしかりませんね」

「「「「「アレ?」」」」」

 

 フォルは自信満々に心当たりを口にするが、トアたちにはピンと来ていない様子。

 で、フォルの言うオリジナリティとは――


「この僕です! この僕こそが要塞村のオンリーワン!」

「……そんなことだろうと思ったわよ」


 はあ、とため息を漏らすクラーラ。

 その一方で、トアは妙に納得していた。

 自律型甲冑兵であるフォルは、まさにこの要塞村にしか存在しない。

 ただ、問題はそれをどうやって名物にするのか。かつて、トアたちは地下遺跡でフォルの量産型と戦ったことがある――しかし、旧帝国の遺産であるフォルの量産計画を勝手に始めるわけにはいかない。


「ふーむ……だったら、デフォルメした姿をキーホルダーみたいな形でグッズ化するなんてどうでしょうか?」

「グッズ化!」


 いつも以上にテンションが高いフォル。

 結局、その後はジャネットとともにグッズ化へ向けて具体的な話へとなっていき、いつの間にか旅の準備は置き去りとなっていた。



 ――数日後。

 そこには「魔除けグッズ」として人気となったフォルの顔面キーホルダーが。


「……思っていた物と違う気がします」

「ま、まあまあ、人気になったんだからいいじゃないか」


 複雑な反応を示すフォルに、トアは必死のフォローを入れるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る