第542話 第5回要塞村収穫祭【後編】
「第一回! 要塞村コスプレ大会――ここに開幕ぅぅぅぅ!」
司会を務めるフォルが、高らかに宣言する。
要塞村コスプレ大会。
まさか、そのような催しだったとは……来訪したバーノン王にはさすがに見せられないのでは――と、ハラハラしているトアであったが、
「コスプレ大会か……いいじゃないか」
「「「国王陛下!?」」」
意外にもノリノリだったバーノン王。
周りの護衛騎士たちも驚きを隠せない。
「……気分を害されたわけじゃなさそうなのでひと安心かな」
ホッと胸を撫で下ろすトア。
肝心の大会なのだが、主催はあのオリビアであった。
最初はメルビンの小説を担当する編集者さんという立場であったが、今ではすっかり要塞村へ馴染み、要塞図書館の司書としても働いてもらっている。ちなみにこれは本人たっての希望によるものだ。
そんな彼女が、極東の島国にあるアーリア―ケという都市で行われているコスプレ大会をこの要塞村で開きたいと熱望し、今回実現に至ったのだ。
本場アーリア―ケではかなり際どい衣装もあると、実際に見たことがあるというシャウナは鼻息も荒く語っていた。そのため、トアはどのような格好でみんなが出てくるのか、心配をしていたが――それは杞憂に終わる。
まず、村の子どもたちによる騎士や精霊のコスプレ。
いかがわしさなどなく、純粋な可愛さにほっこりとした空気が会場を包む。
続いて、若者たちによる獣人族スタイル。
各々が憧れていた姿になって、それを発表する場になっている――それは、想像以上に参加者や観覧者を喜ばせた。
「ここまで……好評になるとは……」
「みんないい笑顔をしているじゃないか。国王として、このような場にいられることができて喜ばしいよ」
バーノン王は嬉しそうに何度も頷きながら言う。
村長であるトアとしても、村民たちが楽しそうに収穫祭を過ごしている姿を見て安堵していた。
もちろん、村民だけでなく、来訪した人々もお祭りを楽しんでいた。
ふと見上げると、神樹も枝を揺らし、なんだか嬉しそうに笑っているような感じがした。
「君も満足してくれたみたいだな」
「む? 何か言ったかい?」
「あっ、いえ、神樹がとても嬉しそうにしていたようなので」
「神樹が? トア村長は神樹の気持ちが分かるのか?」
「なんとなくですけど」
「…………」
それだけ言うと、バーノン王は黙ってしまった。
何か失言してしまったのかと焦るトアであったが、バーノン王が黙っていた理由はそれとはまったく違っていた。
「いや、すまない。神樹と君は一心同体なのだなと思ってね」
「一心同体……」
真正面からバーノン王にそう告げられて、トアは再び神樹を見上げる。
「なるほど……確かに、そうかもしれないですね」
村民はもちろんそうだが、神樹とも一緒に生きてきた五年間。
収穫祭が終われば、今年も残りあとわずか。
要塞村は、また新しい年を迎えるための準備に取りかからなくてはならない。
「やれやれ……収穫祭が終わっても、やることは山ほどあるな」
苦笑いを浮かべつつ、嫌な気持ちはまったくない。
むしろ、これからの日々にトアはさらなる意欲を燃やすのだった。
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