第541話 第5回要塞村収穫祭【前編】

 結局、前夜祭の賑わいは朝まで続いた。

 さすがにトアたちは途中退席となったが、酒が入って盛り上がった大人たちはそのまま大宴会を続行。過去最大の賑わいは周りが明るくなっても続いたのだ。

 夜は星を肴に酒を飲み、明けると朝霧を肴に酒を飲む。

 とにかく、何でもいいから酒を飲みまくったのだ。


 半分くらいの参加者は酔いつぶれてしまい、寝息を立てているのだが、それでも残った者たちは収穫祭本番を楽しむために再び盛り上がり始めた。


「無尽蔵の体力ね……」

「体力という点では、クラーラ様も負けていないのでは?」

「私のとは根本的に質が違うのよ。楽しむことに貪欲というかなんというか……」

「それでいいじゃないか」


 腑に落ちないといった感じのクラーラに対し、トアはむしろその方がいいと告げた。


「楽しみたいって気持ちがあったから、要塞村はここまで栄えることができたんだよ」

「それはそうだけど……」

「クラーラ様、さすがにチョロすぎるのでは?」

「うっさい!」


 久しぶりに炸裂するクラーラの右ストレート。その正確性も失われてはおらず、的確にフォルの頭部を振り抜いて吹っ飛ばす。

 ちょうどその時、エステル、ジャネット、マフレナの三人が慌てた様子で駆け寄ってきた。

 

「トア! もうすぐここへバーノン王がやってくるわ!」

「たくさんの兵士を引き連れて接近中です!」

「わふっ! さらに人が増えますよ!」

「ありがとう、三人とも」

「じゃあ、そろそろあたしの出番かしら」

「うわっ!?」


 完全に不意を突かれて変な声が飛び出るトア。

 現れたのはバーノン王の弟で次期国王候補にも名前があがっていた第二王子のケイスであった。


「ケイスさん、今年もよろしくお願いします」

「あら、そんなにかしこまらなくてもいいのよ? せっかくのお祭りじゃない」


 王子という立場にいながら、ケイスは驚くほどフランクだった。

 本来であれば、いくら村長とはいえトアとはかなり立場に差がある存在――だが、そんなことをまったく感じさせないほどの明るさで、今や彼はこの要塞村に欠かせない人物となっていたのだ。もちろん、村医としての彼を尊敬し、慕う者も大勢いる。


 そんなケイスの役割は、バーノン王の案内役を担うことだった。

 さすがにトア以外のメンバーでバーノン王と渡り合える人物はいないので、ケイスがフォロー役に徹している。とはいえ、トアとしても国王とのやりとりは常人の何倍も気を遣うため、実弟であるケイスの存在は本当に大きかった。


 それからも、続々と各地の大物が要塞村へやってきたと報告を受けた。


「相変わらず豪華なメンバーですねぇ……」


 ちょっと呆れの入った口調で、ジャネットが言う。

 だが、トアはその気持ちがよく分かった。


 分かっていたからこそ、次に取るべき行動も理解している。


「そろそろステージで催しが始まるから、各獣人族たちには警戒を強固にするよう言っておかないとね」

「わふっ! それなら私が伝えてきます!」 


 銀狼族のマフレナならば問題ないだろうと、トアは伝言役を認めた。

 その一方で、要塞村を訪れる人々の数は時間を追うごとに増えていく。

 やがて、集客がピークに達した昼前に、あるイベントのために村人たちはステージへと集まりつつあった。


 そのイベントとは――

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