第540話 前夜祭
収穫祭の準備は着々と進められ――とうとう本番前日を迎えた。
前日であるにもかかわらず、この日の要塞村は朝から大賑わい。
というのも、市場にいつも以上のお客が詰めかけたうえ、いつもなら買い物が終わると戻っていく客がそのまま滞在しているケースが多かった。
理由は簡単。
皆、このあとの前夜祭を楽しみにしているのだ。
「前夜祭だけでこれだけの人がいるって、過去に例がないな」
「今年はステージを中心に常にイベントが目白押しですからね。それを目当てに、前日から泊まり込みで参加する人もいるみたいです」
ステージでのイベント進行を仕切るフォルが、予定表を眺めながら言う。
しかし、それはあくまでも当日のイベントに関してのこと。
前夜祭で人が集まるのは初めてだった。
「そういえば、昨年は前夜祭の酒盛りで大盛り上がりでしたね」
「そうか……その噂が広まったってことか」
トアの読みは的中しているようで、夕方になっても残っているのは酒の飲める年齢の大人ばかりであった。
中には非番を利用してやってきたクレイブ、エドガー、ネリスの姿もある。
「よぉ、トア! 今日は楽しませてもらうぜ!」
「ああ、楽しんでいってくれ」
「エドガー、その調子では明日の本番を迎える前に酔いつぶれるぞ?」
「二日酔いで肝心な時にいないなんてオチはやめてよね」
「大丈夫だっての!」
エドガーたちと別れた後、すっかり辺りは夜の気配をまとっていた。
「さて、俺もそろそろいくとするか」
エノドアやパーベルから集まりつつある人々の間を縫うように移動し、トアが足を運んだのは広場の一角。
そこでは、四人の少女たちがトアの到着を待っていた。
「あっ、トア」
「いくつか料理を持ってきたから、みんなで食べましょう」
「わふっ! どれもおいしそうです!」
「村の人たちが腕によりをかけて作った料理ですからね」
クラーラ、エステル、マフレナ、ジャネットの四人は、直前まであちらこちらを見て回ったトアのために、食事を用意してくれていた。
「おぉ! どれもおいしそうだ!」
動き回ってお腹を空かせていたトアはみんなと一緒に早速食事へ。いつも食べている料理でも、周りの雰囲気が違うせいもあってか、なんだかいつもより食が進む。
すると、そこへローザとシャウナがやってきた。
ふたりの手には酒で満たされたグラスが握られている。
「お主たちも盛り上がっておるようじゃな」
「特にトア村長は朝からずっとあちこち駆け回っていたからね。お疲れかと思ったが……そういうわけでもなさそうだね」
「おかげさまで、まだまだ元気ですよ」
そう語るトアは、要塞村の象徴とも呼べる神樹ヴェキラを見上げる。
神樹は黄金色をした魔法の粒子を放ち、まるで収穫祭の始まりを喜んでいるようだった。
この魔法の粒子が、トアに無限の力を与える。
要塞村が今日まで発展してこられた大きな要因といえた。
「そういえば、今年もバーノン王は来るんじゃったな」
「えぇ。明日のお昼にはこちらに」
「一国の王が常連になっている祭りなど、世界広しといえど要塞村の収穫祭くらいだろうね」
世界中を旅してきた考古学者のシャウナが言うと、非常に説得力があった。
さらに夜が更けてくると、あちこちで酒盛りが始まる。
生まれも立場も種族も越えて、誰もが前夜祭を楽しんでいた。
「いつまでも、このお祭りは続けていきたいな……」
賑やかな宴会場を眺めながら、トアはひっそりとそう呟くのだった。
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