第539話 会場設営と秘密の特訓
収穫祭が近づくと、要塞村は普段と違った活気にあふれる。
市場が朝から盛況であることには変わらないが、そのすぐ近くではドワーフたちが用意した木材を力自慢の銀狼族や王虎族が設計図に従って組み立てていき、祭りで使用するステージづくりに汗を流していた。
「なんだか、年々スケールが大きくなっていくわね」
「そ、そうだな」
銀狼族と王虎族に的確な指示を飛ばすジャネットを見ながら、トアとエステルはそう呟く。
第一回の収穫祭は今よりもずっと小規模であった――というより、村民の数が劇的に増えたため、比較するのは難しいのだが。
今回のステージでは、以前オリビエが提案したコスプレ大会だったり、村の子どもたちによる出し物だったり、とにかくさまざまなイベントが一日をかけて行われる。
それが三日続くため、このステージは収穫祭を通してずっと注目の存在として扱われることになるのだ。
ゆえに、ジャネットをはじめとする設営組の力の入れようも違っていた。
「凄い情熱だなぁ……」
「職人としての血が騒ぐんでしょうね」
のんびり構えているふたりだが、準備を進めなくてはいけないのはここだけではない。
続いて、トアは要塞内にある円卓の間へと向かう。
普段は各種族の代表が話し合いを持つ場所だが、今日は収穫祭に向けてある会議が行われていた。
それを仕切っているのは自律型甲冑兵のフォルである。
「では、こちらが最終決定案ということでよろしいですか?」
「「「「「異議なし!」」」」」
どうやら、トアとエステルが到着した時にはもう終わる寸前だったらしい。
「おや、マスター。ステージの方の視察は終わりましたか?」
「まあね。そっちも終わったみたいだな」
「えぇ。今年は去年より屋台の数が七つ増えましたからね。位置確認はしっかりやっておかないと」
今回のフォルは屋台の運営を仕切るナタリーのよき補佐役として活躍している。
そのナタリーは、通常の三倍以上の客でにぎわうことになる収穫祭当日の市場を運営するので手いっぱいとなるだろう。そんな中でフォルの存在はとても頼りになる。
と、そこでトアはあることに気づく。
「あれ? そういえば……クラーラとマフレナを見ていないな」
「そういえばそうね」
本来ならば、ステージの設営を手伝っているはずなのだが、その現場にふたりの姿はなかった。あのふたりがサボるとも思えないので、何か別の仕事をしているのだろう。
今後の話もしておきたいのでふたりを捜すトアとエステル。
すると、
「その調子よ、マフレナ!」
「う、うん……なんとなく、感覚を掴めてきました!」
中庭から、クラーラとマフレナの声がする。
声の調子から、何やら熱心に取り組んでいるようだ。
トアとエステルがゆっくりと声のする方向へ進んで行くと――そこでは汗だくになっているクラーラとマフレナの姿が。
「いいわよ、マフレナ!」
「はい!」
クラーラとマフレナのふたりが取り組んでいたこと――それは、これまで一度も成功していない輪投げの特訓だった。
「そういえば……去年も惨敗していたっけ……」
「その前の年も散々な結果だったはずよ……」
熱心に輪投げ特訓に熱を入れるふたりの成功を祈りつつ、他の場所の準備のためその場をあとにした。
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