第538話 イベント企画
それは、収穫祭で行われるイベント案を募集していた時のこと。
村長室へ意気揚々とやってきたのは、世界初となるオークの小説家ことメルビンの担当編集で要塞村に滞在しているオリビエだった。
彼女が持ち込んだイベント案は――
「コスプレ大会?」
「そうです!!」
鼻息を荒くして語るオリビエだが、トアをはじめ、同席したエステル、クラーラ、ジャネット、マフレナの四人、さらにフォルやたまたま遊びに来ていたローザさえも知らなかった。
「聞かぬ名前じゃな。一体どのようなイベントなのじゃ?」
真っ先に食いついたのは意外にもローザであった。
「コスプレとは、自分が好きなキャラクターに仮装して楽しむことを指していて、ジア大陸の極東にあるアーリアーケという都市では毎年大規模なお祭りを開催されているんです」
「キャラクターに?」
「主に小説などに登場する人物の格好をマネたりしますね。あとは、単純に自分が『なってみたい』と思っている人物の服を着てみたりとか」
「「「「なってみたい人物」」」」
今度は女性陣四人が声を揃え、お互いに見合っていた。
すると、クラーラが口を開く。
「私だったら、ジャネットの服を一度着てみたいわね」
「わ、私ですか?」
「なんかこう、知的な感じがするし!」
なんとも安直な理由ではあるが、オリビエ曰く、きっかけはそのくらいの感覚で問題ないらしい。肝心なのはいかにその人へなりきるか、だという。
というわけで、早速クラーラとジャネットは互いの服を交換してみる。
「うん! イメージ通り!」
「こちらも動きやすくていいですね」
満足そうなふたりを見て、今度はエステルとマフレナが動いた。
「実は……前々からマフレナの服を着てみたいなぁって思っていて……」
「わふっ! エステルちゃんもですか! 私もエステルちゃんの服を一度着てみたいと思っていました!」
交渉成立。
続いて、エステルとマフレナが服装を交換する。
「さ、さすがに胸の部分が緩いわね……」
「わふ? そうですか?」
多少サイズ差に難はあったものの、願いが叶って満足そうなエステルとマフレナ。
「なるほど。変身願望というのは誰にもありますからね」
「自律型甲冑兵のお主がそれを語るか……しかし、確かにこれは面白い試みかもしれぬな」
女子たちのやりとりを眺めていたフォルとローザにも好評だった。
やがて、コスプレの標的がトアへと移る。
「ささ、トア村長も衣装チェンジしてみませんか?」
「えっ? 俺が?」
「たとえば、女性陣の服なんてどうです? 女装男子はトレンドでもありますし」
「「「「女装男子……?」」」」
オリビエの発言が、よからぬ一体感を生んだ。
「……ねぇ、トア」
「私たちの服を着てみない?」
「わふっ! とっても似合うと思います!」
「えぇ‥…トアさんは肌もお綺麗ですし……きっと素晴らしいですわ」
「あ、あの、みんな? ちょっと怖いんだけど……」
迫りくる女子四人。
気がつくと、空気を読んで退席しているオリビエとフォルとローザ。
数秒後、村長室から甲高い悲鳴が響き渡るが、何が起きたのかその全容を知る村民はごくわずかである。
ちなみに、コスプレ大会は節度を持って実施するよう通達があったものの、好評だったのは事実なので開催が決定したのであった。
…………………………………………………………………………………………………
【お知らせ】
新作を投稿しました!
「騎士団の落とし物係」
https://kakuyomu.jp/works/16817139558453876790
戦いの終わった戦場で回収される《落とし物》から始まる物語で、5~6万文字の中編になる予定です。
※こちらは「お仕事コンテスト」参加作品です。応援よろしくお願いいたします!<(_ _)>
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます