第537話 第5回収穫祭に向けて
夏の終わりが近づき、日々少しずつではあるものの暑さが弱まってくる。
そうなると、次に村長のトアが気にかけるのが、
「そろそろ収穫祭の準備を始めておくか」
毎年恒例行事となっている要塞村の収穫祭について段取りであった。
まだ二ヶ月以上の猶予がある――が、年々その規模は大きくなり、昨年は新たに王の座についたバーノン王の初仕事に選ばれ、大盛況であった。
しかし、それと同時にさまざまな場面で準備不足を痛感するシーンも見られた。
そのため、今年は夏の終わりから取りかかり、晩秋の開催を目途に調整を進めていくことになったのである。
早速、トアは各種族の長たちを円卓の間に集め、会議を行う。
ヒノモト王国から期間限定で移住している妖人族にも協力を仰ごうとしたが、逆に向こうから是非とも協力したいという申し出を受ける。
「至らない点もあるでしょうが、どうぞよろしくご教授ください」
そう言って、妖人族の代表を務めるツバキ姫はペコリと頭を下げた。
これに対し、トアは第一回目の収穫祭から参加しているベテランのモンスター組をサポート役につけると決定。代表であるオークのメルビンにそのことを伝えると、彼は快く了承してくれた。
それ以外については概ね例年通りの動きとなる。
メイン会場となる市場では、取り仕切っているナタリーが中心となって商人たちと話を詰めていき、逐一トアへ報告する手筈を整えた。
一方、トアはトアで国王に収穫祭の開催を告げに近々城へ出向くこととなった。
会議終了後。
収穫祭の話はあっという間に村中へ広まった。
「いやぁ、今年もこの季節がやってきたか」
「収穫祭の話題が出ると夏が終わったんだなって実感するよ」
「俺は今年が初めてだから楽しみだ」
「去年はついに国王陛下が参加したからな」
「今年は一体どうなるんだろうな」
村民たちは今年も収穫祭を楽しみにしているようだ。
去年の「バーノン王の参加」を超えるインパクトはなかなか難しいのだろうが、それでもみんなが楽しめる祭りにしようとトアは張りきっている。
「さて、今年は何をしようかしら」
「いい加減、輪投げで商品をゲットしてみたいわ……」
「わふぅ……私とクラーラちゃんはまだ一度も成功していないんですよねぇ……」
「おふたりの場合、有り余るパワーのすべてを込めて輪を投げるから大惨事になってしまうわけで……」
エステル、クラーラ、マフレナ、ジャネットの四人も、最初期から要塞村を知るメンバーとして盛り上げようとさまざまなアイディアを出し合っていた。
「いつも以上に活気づいてきましたね、マスター」
「ああ。いいことだよ」
フォルとともに村民たちの様子を眺めながら、トアは満足そうに頷いた。
「国王陛下にはいつお会いに?」
「開催時期までまだ時間はあるけど、なるべく早く行こうと思っているんだ」
「賛成ですね」
多忙を極めるバーノン王ではあるが、収穫祭には是非とも参加したいと昨年宣言していたため、今回も何とか日程を調整して参加してくるものだとトアは思っていた。なので、できる限り報告は早めがいいだろうと判断し、三日後には王都を目指すことで話をつける。
こうして、今年の収穫祭へ向けて着々と準備が進められていくのだった。
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