第524話 トアたちの夏休み① 旅の支度

 村民たちからトアたちへ贈られた夏休み。

 シャウナの勧めもあって、その休みの間を離島で過ごすこととなった。


「ちょうど先日、私の古い友人である某国の賢者――あぁ、今は国を出ているんだったな。ともかく、その友人が離島の調査をしていてね。島での生活を手紙で楽しそうに語っていてね。今のトア村長たちにピッタリじゃないかと思ったんだ」

「そうだったんですね。でも、いきなり行って大丈夫なんですか?」

「一応、リゾート地としては人気の高いところだ。もし、泊まれそうになかったらこの紹介状を島の所有者に見せるといい。なんとかねじ込んでくれるだろう」


 さすがは世界にその名を轟かす英雄――八極のひとり。

 トアはシャウナの顔の広さに感心するのだった。



 バカンスを送る夏休みの前日。

 トア、クラーラ、エステル、マフレナ、ジャネットの五人は準備に追われていた。


「思えば、五人だけで遠出って初めてじゃないかしら」


 不意に、エステルがそんなことを言う。


「言われてみれば、そうだね。王都での舞踏会や浮遊大陸、ヒノモトの時だってもっと大人数だったし」

「そう思うと、私たちも結構いろんなところへ行っているわよね」

「わふっ! どれもいい思い出です!」

「そうですねぇ。ちょっと危険な場所もあったりしましたけど、終わってみればどこも印象深いですね」


 旅支度を整えながら、これまで自分たちが足を運んだ場所を思い返す五人。

 時には魔界や本の世界、さらには一日を無限ループする別次元など、候補を挙げていけばキリがないほどだ。


 そして、次の舞台は離島にあるリゾート地。

 今回はこれまでとは違い、バカンスを楽しむために訪れる――つまり、最初から遊び目的で向かうのだ。そのため、五人のテンションは今までと質が違う高さを持っていた。


「離島ってことだから、やっぱり泳がなくっちゃね」

「要塞村のプールで泳ぎ慣れているとはいえ、海は久しぶりですね」


 ジャネットの言う通り、トアたちはあまり海へ行き慣れていない。

 一応、港町パーベルには観光用のビーチがあり、かつてそのビーチで起きたトラブルを解決するために派遣された経験もある。


「シャウナさんから借りた、島を紹介している本を読む限り、海以外にも楽しめそうなポイントが多いみたいだし、本当に楽しみだよ」

「本当ね。特にこの海鮮料理が……」

「もう、クラーラったら」


 笑い合う五人。

 本人たちは気づいていないが、初期の頃からこの要塞村を支えてきた彼らは、現要塞村の象徴とも言うべき存在となっていたのだ。



 ――一方、ところ変わってこちらは枯れ泉の魔女ことローザの私室。

 集まったのは家主であるローザ、そしてシャウナにケイス、ナタリー、さらにはジンとゼルエスの姿もあった。


「いよいよじゃな……」


 遠くを見つめながら、ローザが呟く。


「今回の外泊で、五人の関係に大きな変化が現れることを期待したいね」


 それにシャウナが続いた。


「でも、本当に進展するかしら。トア村長はだいぶ奥手みたいだし」

「ただ奥手というわけではないみたいですよ、ケイスさん。トア村長は何かを狙っているようです」

「ナタリー殿の言う通りだ」

「恐らく、例のブツが関与しているかと」


 最後のゼルエスの言葉に、全員が頷いた。


「残りはあとふたつじゃったな」

「なんとか、私たちの方でもそれが入手できないかどうか、探りを入れてみるよ。――この要塞村の未来がかかっているからね」

「おぉ……なんと頼もしいお言葉!」


 大人たちの怪しげな会議はその後も続いた。

 果たして、彼らの真の狙いとは――


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