第523話 夏のバカンス
「うーん……」
要塞村の村長室。
そこで、トアはある悩みに頭を抱えていた。
実は、ナタリーやケイスからの提案で、この夏に五日ほどのまとまった休みを取ってはどうかと提案された。
要塞村の村長として忙しい日々を送るトアに、少しでも体を労わってもらいたいというふたりと多くの村民たちから出た案であった。
そこまで考えてくれているのなら、とトアはその申し出を受けることに。
――で、何を悩んでいるかと言えば、
「お休みの間……何をすればいいんだ?」
村長業を休むということは、それだけ暇になるということ。
できた時間をどう有効に使うか、トアはそこに悩んでいた。
「こういう場合、一般的にはどういった行動を取るのが正しいのかな……」
自分の好きに行動すればいいのだが、聖騎隊の養成所時代から休みの間も鍛錬を続けてきたトアにはその方法が思い浮かばなかった。
その時、何気なく村長室の窓から外を見てみる。
村を見回るクラーラ。
子どもたちと一緒に遊ぶマフレナ。
同じく、子どもたちに簡単な魔法を教えているエステル。
工房で作った新しいアイテムの実験をしているジャネット。
「……俺だけじゃないよな」
一緒にこの村を盛りあげてきてくれたクラーラ、マフレナ、エステル、ジャネットの四人。お休みをもらうなら、この四人と一緒に過ごしたい。トアは素直にそう思った。
しかし、ただ何事もなく一緒に過ごすというのではいつもと変わらない。
「何か、いつもと違う――そうだ!」
トアはある名案を思いついた。
早速、それを実行するため、この手の情報に詳しいだろう人物のもとへ向かうため、村長室を飛びだして地下古代遺跡へと足を運ぶ。
地下古代遺跡では、シャウナを中心に今もその調査が行われている。
トアが訪ねたのはまさにそのシャウナであった。
「シャウナさん!」
「うん? トア村長? こっちまで足を運ぶのは珍しいじゃないか」
いつもは報告を受けることはあっても、実際に遺跡まで来ることはないため、シャウナも驚いているようだった。
「実は、御相談したいことが」
「トア村長が私に? ……ふむ。何やら込み入った事情がありそうだ。私でよければ何でも相談に乗ろう」
「ありがとうございます!」
とりあえず、場所をシャウナの部屋へと移し、そこで詳しい話をすることとなった。
「それで、相談というのは?」
「実は……数日のお休みがもらえたので、みんなで旅行にでも行こうかな、と」
「ああ、例の村長休日のことか。――って、旅行? それはもしや……」
「クラーラ、エステル、マフレナ、ジャネットの四人です」
「なるほどねぇ……」
シャウナはニヤニヤと笑みを浮かべながら、トアへ「おすすめだ」とある島の情報が書かれた一冊の本を渡す。
「ここならば、誰にも邪魔されず楽しい時を過ごすことができるだろう」
「シャ、シャウナさん……」
トアは最後にシャウナへお礼を告げると、その本を持って村長室へと戻った。
――要塞村の夏は、まだ始まったばかりだ。
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