第522話 要塞村の紹介記事
「要塞村の紹介記事……ですか?」
「はい!」
ある日、要塞村で編集活動をしているオリビエが、村長であるトアにそのような提案を持ちかけた。
「実は、今度うちの発行している本でセリウス王国の激アツスポットを紹介することになりまして」
「それで要塞村を紹介したい、と」
「さすがはエステルさん! 察しがいい!」
やたらとテンションの高いオリビエだが、つまり具体的にどのようなスポットを紹介するかは本人が選ぶため、トアに要塞村内を改めて案内してもらいたいとのことだった。
「思えば、私ってまだ要塞村のことを全然知らないなぁと思いまして」
「最初はメルビンの担当編集だったものね」
オークのメルビンが小説コンテストで受賞し、その作品を世に出すため付きっきりでアドバイスを送っていたオリビエ。その本は売り上げが好調らしく、しばらくこの要塞村に滞在することになったのだが、その状況を活用して要塞村を取材しようということらしい。
と、いうことで、村長トアによる要塞村案内ツアーは幕を開けた。
「やっぱり、要塞村と言ったらこれだよね」
まずトアが案内したのは神樹ヴェキラだった。
「本当に大きいですよねぇ。かなり遠くからでもその姿は確認できますから」
黄金の魔力が溢れ出る神樹ヴェキラは、いつでも村民たちを見守っている。また、聖剣エンディバルを通じて、トアに魔力を与え、彼に圧倒的な力を授けていた。
続いては地下迷宮だ。
「ようこそいらっしゃいましたわね!」
幽霊少女アイリーンが看板娘となっているここは、地下遺跡などがあり、冒険心をくすぐるスポットになっている。
「八極のひとりであるシャウナさんも注目しているスポットですよね!」
「確かに、ここは今まで見てきた歴史的建造物の中でも特に強く関心を引かれたね」
地下迷宮の調査責任者を務めるシャウナへの単独インタビューも実施し、さらに取材メモは増えていった。
続いて訪れたのは村の農場だ。
「「「「「らんらんら~ん」」」」」
「大地の精霊たちが管理する農場……それだけでロマンがありますよ!」
陽気に歌いながら農場を管理するリディスたち大地の精霊を眺めながら、さらにメモの量を増やしていくオリビエ。すでにこれが三冊目となっていた。
それからも、オリビエは要塞村のさまざまなスポットを見て回った。
どれもが村民たちの知恵と工夫、そして協力により生みだされたもので、ひとつひとつがオリビエを感動させた。
「要塞村に移り住んで数ヶ月経ちますが……こうしてみると、新しい発見が多くて驚かされますね……」
夜になり、ひと通り取材を終えたオリビエはすっかり疲れ果てていた。
――しかし、ここからが要塞村のもうひとつの顔が見られる時間帯だ。
「お疲れ様です、オリビエさん」
「あっ、トア村長――あっ」
声をかけたトアの背後には、宴会で盛り上がる要塞村の村民や、近隣の町から駆けつけた者たちの姿があった。
「……どうやら、まだまだ取材の必要がありそうですね」
「あまり無茶は――」
「こんなに楽しそうな場面を前にして、大人しくなんてしていられませんよ!」
十二冊目のメモ帳を片手に、オリビエは笑顔で宴会へと飛び込んだ。
「やれやれ……」
「あっ! トア! 私たちも行きましょうよ!」
「今行くよ、クラーラ」
そんな彼女を追うように、トアもみんなのところへ向かって歩きだすのだった。
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