第525話 トアたちの夏休み② いざ、リゾート地へ
待ちに待った旅行当日。
トアたちは村民に見送られ、要塞村をあとにした。
「さあ! 今日からはお仕事を忘れて楽しむわよ!」
「ふふふ、そうね」
「わふっ! クラーラちゃん楽しそうです!」
「私たちも負けずに楽しみましょう、マフレナさん」
それぞれこの日のために準備した荷物を持ち、港町パーベルへと向かう。そこにはすでにシャウナの手配した船がヘクター町長を経由して停泊していた。
「って、めちゃくちゃ大きな船じゃない!」
「シャウナさんの知り合いの船長さんが船を提供してくれるって話だったけど……」
「本当に顔が広いですね……さすが八極」
「わふぅ……」
移動距離が短く、五人しか乗らないということで、もっと小さな船を想定していたのだが、実際にとまっていたのはかつてヒノモト王国へと移動する際に利用したものとあまり変わらないサイズの大きな船だった。
「ま、まるで貴族扱いだなぁ……」
「……まあ、ある意味、貴族より凄い存在だけどね、トアは」
クラーラが言うと、他の三人も「あぁ」と納得したように呟く。トア自身はまったくそんな自覚はないため、あまりピンと来ていないようだった。
船に近づくと、すでに出港準備を終えていた船員たちがトアたちを迎えに来ていた。その中で、ひとりの男性がトアの前に出る。身なりからして、彼が船長なのだろう。
「お待ちしておりました。船長のジャリエルと申します」
「初めまして。トア・マクレイグです。今日はよろしくお願いします」
「えぇ……」
トアを見つめるジャリエル船長の表情が少しおかしかったことに気づいたトアは、思わずその理由を尋ねた。
「あの……何かありました?」
「いや、その、要塞村の評判は以前より耳にしていましたが、まさか本当に若い少年だったんだな、と」
すでに世界中に轟いている要塞村の評判。
トアの存在を知らぬ者からすれば、これまで不可能とされてきた他種族との共同生活――それを実現した人物ともなれば、相当な実力者であると誰もが思っていた。
しかし、ふたを開けてみれば、要塞村の村長はまだ十代の少年。
ジャリエル船長も、シャウナからトアの年齢などを聞いていたが、最初はからかわれているだけだと思っていたのだ。
「その若さでエルフやドワーフ、銀狼族に王虎族、天使に魔人族まで――それ以外にも数多の種族をまとめあげるとは……いや、本当にたいしたものです」
「いやいや、みんなのおかげですよ。俺自身は何も大それたことはしていません」
「ははは、御謙遜を。あなたがいなければ、他の種族も同じ場所で共に暮らそうとは思わなかったでしょう」
「船長さんの言う通りよ、トア」
「クラーラ!?」
トアと船長の会話に割って入るクラーラ。
さらに、
「そうそう」
「わふっ! その通りです!」
「私が言うのもなんですが、トアさんはもう少し自分に自信を持たれてもいいと思います」
エステル、マフレナ、ジャネットが追撃する。
結局、このあとも女性陣に褒めたおされたトアは、若干呆れた様子のジャリエル船長に案内されて船内へと移動するのだった。
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