第518話 屍の森、改名する?【中編】

 領主であるチェイス・ファグナスへ、屍の森の改名を提案すると、


「それはいいアイディアだ。是非やってみてくれ」


 と、ノリノリで快諾された。

 そこで、新たな名前を考えることにしたのだが、ここでトアにあるアイディアが浮かぶ。


「そうだ。みんなからも募集しよう」

「募集って……新しい森の名前をみんなで考えるってこと?」

「その通りだよ、クラーラ」


 ファグナス邸から戻ったトアは、早速新しい森の名前を考えていたのだが、「これだ!」という名前が浮かばず、それならいっそのことみんなでアイディアを出し合ったらどうかという結論に至ったのだ。


 それを村長室にいるクラーラ、マフレナ、エステル、ジャネットの四人に説明。

 

「いいんじゃないかしら」

「わふっ! 大賛成です!」

「では、私はドワーフたちに知らせてきますね」

「私はエルフ族のみんなに教えてくるわ」


 四人は早速それぞれの種族たちへ森の名前を募集することを告げに走る。


「いやはや、随分と張り切っていますね」

「いいことだよ。――って、フォル!?」

「はい。フォルですが?」

「いやいや、一体いつからいたの!?」

「つい先ほど、マスターの自室の窓から」

「なんでそんなところから!?」

「……サプライズです」

「今の間は何!?」

「まあ、いいじゃないですか。それより、公募するというのであれば、採用された方に商品を用意するというのはどうでしょうか? きっと多くの参加者が集まると思いますよ」

 

 雑に流されたが、フォルのアイディア自体は素直に「いいな」と思えるものだった。


「確かに、それがいいかもね。でも、何があるかな」

「マスターの私物とかどうでしょう」

「……それ、誰が欲しがるの?」

「少なくとも、クラーラ様、エステル様、マフレナ様、ジャネット様、クレイブ様は死ぬ気で採用を狙ってくると思いますが?」

「なんでクレイブが!?」


 と、一応ツッコミを入れたが、普通に参加してきそうだな、とも思うトアだった。 


 ――気を取り直して。

 

 四人の少女たちから始まった、「新たな森のネーミング大会」――これはあっという間に村民及び周辺の町の人々に知れ渡った。


「聞いたか?」

「ああ」

「なんでも、採用者には凄ぇ商品が送られるらしいぜ?」

「マジかよ」

「それって、要塞村の永住権とか?」

「だったら狙うしかねぇよな!」


 噂には尾ひれがつき、トアたちの知らないところでだんだんと大きくなっていった。

 ――そして、訪れた募集開始の日。


「トア村長!」

「わっ!? ど、どうしたんですか、ジンさん」


 朝の支度をしていたトアのもとへ、銀狼族の長であるジンがやってきた。


「大変なんです! 市場が大盛り上がりで!」

「えっ? それっていいことなんじゃ……」

「もはやそう喜べる範疇を越えています!」


 尋常ではないジンの様子を不審に思ったトアは、とにかくまずは現場へと出てみることにする。

 すると、


「なっ!?」


 トアは驚愕のあまり思わず叫ぶ。

 そこには、いつもよりも遥かに大勢の人々が、要塞村に押しかけていたのだ。


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