第519話 屍の森、改名する?【後編】
「えぇっと……これはどういう状況?」
あまりの大盛況ぶりに、トアは困惑していた。
事態を重く見たフォルが周囲へ聞いて回ったところ、どうやら屍の森の新しい命名権を得た場合、要塞村へ移住できるという権利が得られる――と、いう噂が広まっているとのことだった。
現状、要塞村へ移り住むのに特別な手続きなどは必要ない。
しかし、村民が村民だけに、来る者みな受け入れるということはできなかった。
一応、市場での仕事をする商人たちは要塞村で寝泊まりしているが、それは敷地内にテントを張ったり、宿屋部分として開放しているスペースのみの話で、彼らを村民とカウントするのは少し無理がある。
そういった事情もあるため、仮にここで命名権を得たとしても村民として受け入れるのは難しい。
開催前にトアは参加者を集めてそう説明を行う。
「やっぱりガセネタだったか」
「まあ、そりゃそうか」
「しかし、商人たちのようにテントでの寝泊まりはありなんだな」
新たな可能性を見出したように明るい表情となる参加者たち。
せっかくなら、と彼らは考えてきた森の名前を投票し、彼らに「参加賞」という形で、以前ナタリーが考案した市場の割引券をプレゼントした。
「なんという大盤振る舞いだ!」
「これだけでも来た甲斐があったぜ!」
村民になることは叶わなかったが、これはこれで参加者たちの心を掴んだのであった。
投票が終わると、選考に移るため、トアは各種族の代表者たちとともに円卓の間へと移動する。
「さて、と……どんな名前があるかな」
早速、投票箱から一枚の紙を取りだして、「これは」と思う候補を選んで黒板へと書きだしていく。ちなみに、書記はジャネットが担当した。
その後、候補が出された後に話し合いが行われ、最終的に五つまで絞り込んだ。
さらにここからひとつに選ぶのだが、
「最後はトアに選んでもらいましょうよ」
クラーラがそうみんなに提案した。
「確かに、村長はトアだものね」
「いいアイディアだと思いますよ」
「わふっ! トア様の選んだ名前なら、私も大賛成です!」
エステル、ジャネット、マフレナもこれに賛成。
さらにジンやゼルエスやローザなど、集まった者たちも「異論なし」ということで意見がまとまり、最終判定は村長のトアに委ねられることになった。
トアは一度深呼吸をしてから、名前の書きだされてある黒板の前に立つ。
「そうだなぁ……実を言うと、この名前が最初から気になっていたんだ」
そう言って、トアが指さした村の名前は――『希望の森』。
「希望の森、か……まさに今の要塞村を表すのに相応しい言葉だね」
シャウナのひと言がきっかけとなり、周りからも賛成の声が相次いだ。
「よし! それじゃあ、この希望の森に決定だ!」
こうして、屍の森は希望の森として名前を改め、今後地図などでの表記が一新されることとなった。
「ちなみに、この希望の森って提案したのは誰だったの?」
「魔人族のメディーナ様ですね」
「い、意外なところから出てきたんだな……」
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