第515話 精霊議会⑦ 精霊界より愛をこめて
精霊議会が終了し、議長の家で休息していたアネスも元気を取り戻していた。
リディスたち大地の精霊が小柄だったし、議長も同じくらいだったから小さな家を想像していたが、実際は意外と大きく、トアやアネスでも問題なく過ごすことができた。
議長は人間世界のことに関心を抱いているようだった。
要塞村で多くの種族が一緒に暮らすようになる以前――人間と他種族は距離を置いて生活していた。精霊だけでなく、エルフもドワーフも銀狼族も、それぞれがかかわりを持つことなく生きてきた。
それが、世界の常識だった。
しかし、その常識は要塞村の登場で大きく覆されている。
精霊界でも、以前からその話題はよく議会に持ち込まれていたという。
議長からの話を聞いているうちに、トアは要塞村の重要性を改めて実感することとなった。
もともとは勘違いから聖騎隊をやめ、新たな生きる道を模索している途中で偶然立ち寄った要塞ディーフォルで力に目覚め、さらにそこでクラーラに出会った――それからいろんな出会いがあり、今の要塞村を形作った。
我ながら、とんでもないことになっているなぁとトアは思った。
だが、今は各種族が協力し合い、近隣の町とも良好な関係を築けている。
「これからも、是非あの村を発展させていってもらいたい」
「任せてください」
議長からの激励もあり、ますます村長の仕事に熱が入るトアだった。
結局、トアとアネスは議長の家に一泊し、翌朝改めて要塞村へ戻る準備を始める。
「君と知り合えて本当によかったよ」
「こちらこそ」
「アネスよ、また何かあったらここへ来るといい。――君ならば、精霊界への行き方も分かっておるじゃろ」
「はい。思い出しましたから……今度はお土産を持ってきます」
「ふぉっふぉっふぉ! それは楽しみじゃな」
最後に、トアたちは固く握手を交わした。
そして、いつかもっと多くの村民をこの精霊界に招待できるようにしたいという議長の願いを叶えるべく、とはこれからもさらに要塞村を発展させていくことを誓ったのだった。
それから、ビセンテの案内で再び人間界へと戻ってきたトアたち。
来た時と同じように、大きな泡に包まれて川を流れていく。
「今回は本当にいい経験ができました」
「それは我々精霊族も同じだ。こうして人間と真正面から話し合うなど何百年ぶりという者がほとんどだろうからな」
人間の少年少女と旅をしているという歌の精霊女王。
新たに領主となった少年とその婚約者の少女と交流を深めている山の精霊族。
要塞村と大地の精霊の関係をきっかけに、数百年という長い間に渡って交流が断たれていた人間と精霊族は、今その距離を大きく縮めている。
今回の精霊界訪問は、それを実感させてくれた。
そうこうしているうちに、要塞村のすぐ近くまでたどり着く。
「送ってくれて、ありがとうございました」
「これくらいお安い御用さ。――アネス」
「は、はい」
「元気でな。議長も言っていたが……何か困ったことがあったら、俺を呼んでくれ」
「うん」
ビセンテとアネスの関係にも大きな進展が見られた。
とはいえ、見た目は大人と子どもという構図なので、すぐに以前のような関係にはなれないだろうが。
ビセンテと別れの挨拶を済ませたトアとアネスは、精霊界の花の種を土産に、要塞村へと帰還したのだった。
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