第514話 精霊議会⑥ 精霊議長からの贈り物

 精霊議会は滞りなく進み、目立ったトラブルもなく終了。

 今回は議長が選出した数名の精霊たちが、新たに覚醒した歌の精霊女王へ状況説明をするために派遣されることとなった。


 こうして、人間としては初めて参加した――トアの精霊議会は思いのほか呆気なく終わったのだった。



 なんとも言えない余韻に浸っていると、ビセンテがやってきた。

 彼は気疲れてしているトアをリラックスさせるように笑顔で声をかけた。


「ははは、思ったよりたいしたことはなかっただろう?」

「いやいや、あの場に座っているだけで相当なプレッシャーでしたよ」

「それにしては随分と落ち着いていたように見えたが……アネスも」

「私は……」


 アネスは困惑しているようだった。

 議会の内容についていけなかったというわけではない。むしろ、アネスは同年代――と言っても、人間基準で考えるのは違っているのかもしれないが、それでも、村にいる子どもたちの中でもずば抜けて知性が高いため、きっと議題の内容はしっかり頭に入っているだろう。


 ――入っているからこそ、アネスは困惑していたのだ。

 気になったトアとビセンテが尋ねてみると、アネスはかつて要塞村を襲い、神樹ヴェキラの魔力を手に入れようとしていた頃の記憶が、薄っすらとだがよみがえりつつあると語った。


「あの時の私は……要塞村を……」


 それによる罪悪感が徐々に高まっているようだ。

 少し落ち着かせようと、ビセンテとともにアネスは一度議長の家へと向かうことになった。

 トアは議長の家に寄る前、もう少しだけ精霊界の様子を観察することにした。

 アネスの容体は心配だが、ビセンテが優しく介抱している姿を見て、もともと彼はアネスにプロポーズをしようとしていたことを思い出し、ここは任せることにしたのだ。


 しばらく辺りを見回していると、他の精霊たちの見送りを終えた議長がやってくる。


「随分と熱心じゃな」

「いや、精霊界なんて滅多に来られる場所じゃないですからね。この様子をしっかり目に焼きつけておこうと思って」

「ふぉっふぉっふぉ、それは感心なことじゃが――お主ならば、これからもちょくちょくここを訪ねてきても構わんぞ」

「えっ?」


 それは、トアが想像もしていなかった申し出だった。


「で、でも、俺は人間で――」

「じゃが、お主は大地の精霊たちと仲良く暮らしておるし、先ほどは山の精霊たちにアドバイスを送り、たちまち良好な関係を築いている。何より、アネスを心から心配し、助けようとする優しい心を持っている」

「議長……」


 その言葉に感動を覚えていると、さらに議長はトアへ小さな袋を差し出した。


「これは?」

「精霊界にのみ咲くとされる花の種じゃ」

「なっ!?」


 つまり、人間界では絶対手に入らない激レアな種ということになる。


「で、でも――」

「受け取ってくれ。これもまた、精霊と人間の友好の証じゃ。それに、君のところには天界で育つ神樹がある。精霊界で育つこの花は、きっと良い相乗効果を生んでくれるはずじゃ」

「あ、ありがとうございます」


 トアは、議長から種を受け取ると、満面の笑みで礼を述べる。

 これでまた、要塞村はひとつ凄まじい強化を果たすことになったのだった。

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