第513話 精霊議会⑤ 議場
精霊議会が行われる場所。
トアは要塞村で村民たちが会議に使う円卓の間のような場所を想像していたのだが、その議場というのはそれとはまったく異なっていた。
まず、屋内ではなく屋外に議場があった。
しかも、それは木製の大きなテーブルに各精霊族が集まり、議論を交わすというスタイル。なんともオープンな場であったのだ。
「こ、ここが議場ですか……?」
「ははは、人間界の議場とはだいぶ雰囲気が異なるから驚いたかな」
「え、えぇ」
そもそも屋外であることがトアを驚かせた。
するとそこへ、ビセンテが紹介したという山の精霊たちがやってきた。山の精霊たちは最近になって人間とも交流するようになったらしく、すでに大地の精霊と仲良く暮らしているトアに成功の秘訣を聞きに来たらしい。
とはいえ、話を聞くと、すでに山の精霊とそこに住んでいる領主たちは仲良く暮らしているように思えた。
それでもまだ心配だという山の精霊たちのため、トアはこれまでの経験から分かっていることをアドバイスする。
果たして、それが本当に効果的なものであるかどうかは定かでないが、思い当たる節はあるらしく、少なくとも、不安を取り除く効果くらいはあったようだ。
ちょうどその話に区切りがついた頃、議場に年老いた精霊がやってくる。
「おぉ! 議長! お元気そうで何よりです!」
その姿を視界に捉えたビセンテは、すぐにその老精霊のもとへと向かう。
議長ということは、この議会の場でもっとも立場のある精霊なのだろう。
その威厳たっぷりといった見た目からも、それが伝わってきた。
議長と呼ばれた精霊はビセンテと固い握手を交わした後、トアとアネスへ視線を向ける。特別何かをしたというわけではないが、気配でその存在を察知したらしい。
「君たちが今回の特別ゲストというわけか」
「え、えっと、そうなるんでしょうか……」
いまひとつ実感の湧かないトアは曖昧な返事。
一方、ここへ来てから妙に落ち着かないアネスはトアの背後に体を隠し、顔だけを少し出して様子を窺っているようだ。
「ほっほっほっ! これがあのアネスとはのぅ」
「ア、アネスを知っているんですか?」
議長が知っているアネスというのは、トアが戦った方のアネスだろう。
「そうじゃ。あの頃は力を追い求めて危うい行動を繰り返していたものじゃが……よき少年と巡り合えてよかったのぅ」
その言葉に、アネスは黙って頷くことで答える。
とりあえず、悪い方向に思われていないようなのでホッとした。
当時のアネスについてもっと情報を得たいトアであったが、ここで議会に参加する精霊たちが揃ったということで、いよいよ開始する運びとなった。
今回の議題は新たに覚醒した歌の精霊女王について。
彼女は女王として覚醒しながらも、未だにその力を安定的に扱えるわけではなく、覚醒当初は旅に同行していた
現在、歌の精霊女王はその少年と数名の仲間たちとともに各地のダンジョンを巡る旅をしているらしい。
そこで、彼女に精霊女王としての心構えや、力の抑え方を教えるための精霊が選出されることになった。
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