第512話 精霊議会④ 到着

「ここが……精霊界……」


 恐らく、人類として初めて精霊界へ足を踏み入れたトアの眼前には、不思議な光景が広がっていた。


 森――で、あるには違いないが、どう見ても屍の森ではない。見たことのない大きな滝が流れていたり、その近くには湖もある。生えている木々も、見慣れているものよりずっと背が高く、幹は竜巻が直撃しても倒れないだろうと思えるほど太かった。


「どうかな、精霊界の感想は?」

「な、なんていうか……凄いって言葉以外に見つかりません……」


 長らく森の真ん中にある要塞で暮らしてきたトアだが、この精霊界にある森はすべてのスケールが桁違いであった。その迫力を前にして、たまらず語彙力を失ってしまう。


 一方、この精霊界で生まれ育ったアネスは、


「…………」


 ただ黙って、周囲を忙しなく見回していた。


「何か思い出したかい?」


 そんなアネスを見ていたビセンテが尋ねる。最初は驚いた様子でおどおどしていたアネスだったが、ビセンテが真剣に聞いていることを感じ取ると、小声ではあるが答えた。


「この景色……前にも見たことがある」

「ははは、そうだろうな。君は特に――あの木を気に入っていたよ」

「あれを……」


 ビセンテが指さした方向にある木をジッと眺めるアネス。

 その後ろ姿を見ていると、トアは彼女が初めて要塞村に来た時のことを思い出していた。


 大地の精霊女王アネス。

 もともと、彼女は神樹ヴェキラに秘められた強大な魔力を独占するため、要塞村を崩壊させようと目論んでいた。

だが、トアの持つ聖剣エンディバルの力により、アネスの野望を打ち砕くことに成功。魔力をすべて使い果たしたアネスは、記憶をすべて失い、小さな女の子の姿となってしまうが、そのまま要塞村の一員として暮らし、今ではすっかり子どもたちとも馴染んでいた。


 それまでのアネスは――純粋に力を求めていた。

 何者にも屈しない強大な力を求め、神樹にたどり着き、そしてトアに敗北した。


「アネス……」

 

 トアの胸に湧き上がる疑問。

 あの時のアネスは、一体なぜあそこまで力を求めていたのか。

 もともとの性格が傲慢というなら、単純に他を圧倒するために神樹の力を悪用しようとしていたのかもしれない。

 だが、ビセンテがアネスにプロポーズしようとしていた件もある。

 もしかしたら、アネスはもっと別の目的で動いていたのかもしれない。


「おっと、そろそろ議会が始まる時間だな。さあ、こっちへ来てくれ。議場まではちょっと歩かなくちゃいけないんだ」

「あっ、わ、分かりました」

 

 ビセンテの案内で、トアとアネスは精霊議会が行われる議場を目指して森の中を進んでいくことに。


「それにしても凄いですね……森の中には動物までいる」

「あれは精霊獣と呼ばれる者たちだ」

「精霊獣……」

「君たちの世界でいうなら、《召喚士》というジョブを持った者たちが彼らを精霊界から呼びだして使役するらしい――のだが、最近はあまり見かけなくなったな」

「確かに、《召喚士》って聞いたことがないジョブですね」


 議場へ向かう途中、トアは興味深い話を聞く。

 それは、自分の持つジョブ――《要塞職人》の謎に迫れるかもしれないというものだ。

 しかし、核心に迫るよりも先に目的地へ到着した。





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