第500話 ヒノモト王国へ⑬ 妖人族

「まあ、そういうことですわ。そいじゃあ、今日はこの辺で」


 ゼンはそう言うと、高々とジャンプする。人間を遥かに凌駕する跳躍翼力をもって上空で待機していた天狗族のシキの足に捕まると、そのまま飛び去っていった。


「ゼン……」

「なぜこのような……」


 イズモは去っていくゼンとシキを見上げながら、そしてタキマルは悔しそうに、それぞれ反応は異なるものの、互いに想いは同じのようだった。



 ヒノモト城を襲撃した妖人族たちは、全員が撤退をしたようだ。

 幸い、軽傷を負った者が数人いたくらいで大きな被害はなかったという。


 だが、ヒノモトの人々にとっては、それ以上に「なぜ妖人族が?」という衝撃の方が強かったようで、しばらく混乱が続いていた。

 ヒノモト国王の呼びかけにより混乱が収まると、今後の対応を練らなければいけないということ、そして、今夜開かれる予定だったパーティーの出席者を無事に帰すための話し合いが始まった。


「まさかこんなことになるなんて……」


 会議の結果を待つトアたちだが、常に周囲への警戒を続けていた。

 妖人族はいなくなったが、いつまた襲ってくるか分からない。タキマルの話によると、ゼンの言っていた通り、今回の行動はあくまでも宣戦布告であるため、追っ払うのにそれほど苦労はしなかったという。


 しかし、もし次に攻撃があるとしたら、あの程度では済まないだろう。


 そのため、トアたちはバーノン王を連れてすぐにでもストリア大陸のセリウス王国へ戻ろうと考えていた――が、バーノン王は友好国であるヒノモトの危機に対し、なんとか力になれないかと現在ヒノモト王と会談を行っている。


「トアよ。少し落ち着け」

「は、はい……」


 ローザから指摘を受けて返事をするが、一向に落ち着きがないトア。

 トアだけでなく、エステル、クラーラ、マフレナ、ジャネットにフォルも、周囲を警戒しているということもあって緊張感が漂っていた。


「みんな、気持ちは分かるけど……こういう時こそ落ち着くべきよ」


 どこか地に足がついていない状態のトアたちを見かねて、ケイスが語りかける。今でこそ要塞村の村医を務めているが、本来ならばセリウス王国の第二王子という立場――つまり、バーノンと同じように守られるべき存在なのだが、今は逆にトアたちを励まし、年長者らしい振る舞いを見せている。


「ケイスさん……そうですね」

「……変な緊張感があったわね、エステル」

「えぇ。私たちらしくなかったわ」

「わふっ! その通りです! 気持ちを切り替えていきましょう!」

「こちらには八極のローザさんとイズモさんがいますしね」


 ケイスの声かけにより、トアたちの間にいつもの空気が流れる。


 ――とはいえ、周りの状況が好転したわけではない。

 まだまだ油断できない状況である。

 そんな時、トアたちのいる部屋を訪れる者が。


「トア殿、少しよろしいか」

「タキマルさん?」


 やってきたのはタキマルだった。


「どうかしたんですか?」

「実は……ふたりの国王が、あなたにお話があるそうで」

「えっ?」


 ふたりの国王というのは、バーノン王とヒノモト王のことだろう。 

 果たして、トアを呼んだ理由とは――

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