第501話 ヒノモト王国へ⑭ ふたりの国王

 いきなりふたりの国王に呼びだされたトアは、タキマルの案内でその会談場所へと向かっていた。


 バーノン王は、以前にも何度か顔を合わせて話をしているため、トアとしても緊張感は若干緩まる。

――問題はヒノモトの王だ。

 ヒノモト王国はナガニシ家という一族が治めてきた。

 現在はその十三代目が国王として君臨しているという。


 トアにとって、バーノン王以外の国王と会うのはこれが初めての経験だった。フェルネンド王国にいた頃は行事などで顔を見ることはあっても、近い距離から言葉を交わしたりしたことは一度もない。

 なので、これまでさまざまな場面を経験してきたトアでも、さすがに緊張感を隠し切れない様子であった。


「こちらです」


 タキマルの声にハッとして顔をあげると、そこには豪華な装飾が施された扉が。それをノックし、トアを連れてきたことを告げると、中から「入ってくれ」と返事がきた。今の声はバーノンのものではないので、ナガニシ王のものだろう。

 

「失礼します」


 声をかけてから、タキマルは扉を開けて入っていく。それに続いて、トアも室内へと入っていった。


 そこには大きなテーブルが置かれており、バーノン王とナガニシ王が向かい合うようにしてイスに座っている。


「待っていたぞ、トア・マクレイグ」

「君が噂のトアくんか」


 黒髪に黒髭の男性――彼がナガニシ王のようだ。

 トアへ視線を送るその表情は、彼を緊張させないためかニコニコと微笑んでいる。だが、その背後には王と呼ぶに相応しいオーラがにじみ出ている。

 一瞬、そのオーラに当てられたトアは怯んでしまう。


 ――だが、グッと拳を握って表情を引き締めると、トアはナガニシ王へ一礼する。


「初めまして。要塞村の村長を務めております、トア・マクレイグです」

「ほぉ……バーノン王が言う通り、なかなかいい面構えをしている少年だ」

 

 ナガニシ王は「がっはっはっ!」豪快に笑いながら言う。

 同じ国王だが、クールで物静かなバーノン王とはまるでタイプが違った。


「そ、それで、どうして俺を……」

「うむ。少し……相談したいことがあってな」

「相談したいこと、ですか?」

「ああ。――これは君だけではなく、要塞村全体にかかわることなのだが」

「要塞村に!?」


 今やセリウス王国内でもトップクラスの規模となり、さまざまな種族がともに京食し合って生活している要塞村――バーノン王は、トアを呼びだした理由にその要塞村が大きくかかわっていると口にした。


「い、一体、何が……」

「実は――」

「そこから先はわたくしからお話しましょう」


 トアとバーノン王の会話に割って入ってきたのは――少女の声だった。


「えっ? ――き、君は!?」


 声のした方向へ視線を移すと、そこには、


「お久しぶり――っと、言っても、船の中で会って以来だからそれほど時間は経っていませんね」


 そこにいたのは、ヒノモト王国へ来る船の中で出会ったツバキ姫だったのだ。

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