第499話 ヒノモト王国へ⑫ 目的
「俺たち妖人族は、ヒノモト王国の領地を我が物とするために動きだしたのだ」
人間と友好的な関係を築いていると言われていた妖人族。
だが、そんな彼らが突然クーデターを起こしたのだ。
「バカな……」
理解できない状況を前に、タキマルは呆然と立ち尽くす。
一方、その辺りの事情は耳にしていても、普段から妖人族と接していないトアたちは冷静に状況を分析していた。
「クーデターということは……何か妖人族にとって不利益な事態が起きているということなのか?」
「ほぉ……落ち着いているな、小僧。ヒノモト出身でおまえくらいの年齢のヤツは、俺たち妖人族を見るとビビっちまうんだがな」
「もっとおっかない存在を知っているからじゃないかな」
ある時は魔界産の巨大昆虫と。
ある時は霧の館に住む、世界でも屈指の実力を誇る魔女と。
ある時は元仲間の聖騎隊と。
それ以外にも、さまざまな敵や、要塞村に住んでいる銀狼族や王虎族、冥鳥族、さらに魔人族や天使族、人魚族と生活をともにしているトアたちには、今さら妖人族くらいでは驚きもしないのだ。
さらに、この場へ新たな味方が参戦する。
「これは一体どういうことだ……?」
トアたちの前に現れたのは、八極のひとりであるイズモだった。
「妙に騒がしいと思ったのだが……まさかおまえたちが攻め込んでくるとは、な」
「イズモの旦那……」
両者の間に流れる張り詰めた空気。
さらに、
「戻ってきて正解じゃったな」
ケイスとともにバーノン王のもとへ向かったはずのローザもやってきた。
「ローザさん!? バーノン王は!?」
「ワシの作った結界魔法で守られておる。それより……」
ローザの視線はゼンへと向けられる。
「あまりよその国のことに首を突っ込むようなマネはしたくないが……もはやそのレベルの話しではなさそうじゃのぅ」
小さなローザの全身から凄まじい量の魔力が溢れ出てきていた。
近くに立っているだけなのに、肌が粟立ってくるほどだ。
弟子のエステルでさえこれまで見たことがない、本気となったローザの姿がそこにあった。
「こいつが魔力か……すげぇな。何もされていないのに肌へ突き刺さるようだ。俺も妖力は高い方だが、それとはまるで質が違う」
青鬼のゼンは初めて目の当たりにする魔力に怯んでいた。
しかし、その相手が枯れ泉の魔女であるローザとあっては無理もない。
八極の中では後方からの支援係に徹していたが、戦おうと思えば他のメンバーと遜色ない実力を有している。
魔法を見たことがないゼンも、それはすぐに察せられた。
「こりゃあ……俺たちが束になってかかっていっても勝てそうにねぇな」
ゼンの視線は上空へと向けられた。
そこには、同じ妖人族で天狗のシキが周りの様子をうかがうように旋回している。どうやら何か合図を送っているようだ。
「だが、今日のところはとりあえず意思表示と――あの御方を俺たちの手元へ連れ戻すって目的を達成させればそれでいい」
「あの御方?」
「ツバキ様のことか」
イズモが口にしたツバキという名前に、トアは心当たりがあった。
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