第485話 突然の来訪者【前編】

「うぅ……寒いのぅ……早く暖かくなってもらいたいものじゃ」

「まだまだ一ヶ月以上は今の気候じゃないかな」


 地下迷宮近くにあるシャウナの自室。

 そこへローザが訪れ、何やら話し合っている――が、シャウナの方は会話をしながらも、手にしている一枚の紙へ視線が向けられていた。


「さっきから一体何を読んでおるのじゃ?」

「手紙だよ。古い友人でね。甥っ子の領地に見知らぬ遺跡が現れたので調査をしてほしいとのことだったが……いかんせん、私はこの要塞村の古代遺跡調査で手一杯だからね。知人を紹介しようと思っているんだよ」

「ほぉ……新しい物好きのお主なら、そちらへ向かうと思ったのじゃがな。ここへ来る前も別の遺跡を調査中だったと言っておったし」

「あそこはもう私がいなくても十分やっていけるだろうと判断したからさ。それに、ここの遺跡についてはまだまだ謎が多い。それを放り出してはいけないよ」


 シャウナにとって、要塞村の地下に眠る遺跡はそれだけ魅力的に映っていたのだ。

 

「おっと、カップが空になっていたか」


 コーヒーのおかわりを淹れようと、シャウナが立ち上がった時だった。


「「!?」」


 ふたりの表情が一変。

 和やかな雰囲気から一転し、表情は険しいものへと変わる。


「今の気配……まさか、ヤツがここへ?」

「珍しいね。この村のように、人の集まるような場所は苦手で、滅多なことでは足を運ばない御仁だが……」

「弟子のヴィクトールとは真逆じゃからな。――となると、何か明確な目的があってこの要塞村へやってきたということになるのぅ」

「明確な目的……というよりは、会いたい人物がいたということじゃないかな?」

「ワシもそう思う。ヤツの狙いは……間違いなくトアじゃ」


 シャウナとローザは顔を見合わせて頷くと、要塞の外へと出てトアを捜し始めた。




 ――一方、そのトアは今日も朝から市場の様子を眺めていた。

 記録的な積雪によってしばらく閉鎖されていたが、村民たちによる一斉雪かきの成果もあってすぐに再開する目途が立ち、今日も大繁盛。


 賑やかさを取り戻した要塞村市場に、トアがホッと安堵していると、


「トア村長、少しよろしいですかな?」


 声をかけてきたのは銀狼族の長であるジンだった。


「ジンさん? 何かありました?」

「それが……トア村長に会いたいというご老人が来ていて……」

「俺に会いたいご老人?」


 トアを訪ねてくる人物は少なくない。

 だが、ご老人という表現が気になった。


 思い浮かぶ人物は特にいない。そうなってくると、この市場に出店を希望する商人という可能性が高い。とりあえず会ってみようと、その老人が待つという市場の中心地へと移動する。そこで待っていたのは、


「!? あ、あなたは!?」


 突然声をあげたトアに、周囲も「何事だ?」と注目。

 トアが声をあげるのも無理はなかった。

 なぜなら、


「八極の……アバランチさん」


 以前、浮遊大陸で顔を合わせた、赤鼻のアバランチだったからだ。


「久しぶりじゃのう、少年村長よ」


 ゆっくりと顔をトアへと向けるアバランチ。その瞬間、周りも騒然となった。


「あ、あの人が……八極のひとり――赤鼻のアバランチか!」

「正体不明と言われた、幻のメンバーの!?」

「マジかよ!?」


 八極の中には、考古学者をしているシャウナや、書物を出版しているローザ、さらに、故郷ヒノモト王国の王家に仕えるイズモなど、大戦後の消息がハッキリ分かる者もいれば、リーダーのヴィクトールや魔人女王カーミラ、死境のテスタロッサのように一切不明の者もいる。アバランチは消息不明の方に部類されていた。


 ゆえに、こうして大衆の前に姿を現したのは、異例中の異例なのだ。


「な、なぜここに?」

「野暮用があってこのストリア大陸に来たのじゃが、お主の噂はどこへ行ってもよく聞くのでなぁ……少し腕試しをしてみたくなってのぅ」

「う、腕試し?」

「お主がどれほど強いのか――確かめたいのじゃ」


 それは、八極からの挑戦状。


「ト、トア村長とアバランチが?」

「こりゃ凄いぞ」

「どっちが強いんだ?」


 周りで話を聞いていた人々は一気に盛り上がる。


「吾輩の目から見れば、ローザもシャウナもまだまだヒヨッコ……あのふたりは以前お主を絶賛しておったが、その実力を直に確認しようというわけじゃ。悪いが、付き合ってもらえんかのぅ」

「……分かりました」


 トアは申し出を受け入れる。

 赤鼻のアバランチ。

 その実力がどれほどのものか、自分自身で体感してみたくなったのだ。


 こうして、トアと赤鼻のアバランチによる模擬戦が執り行われる運びとなったのである。






…………………………………………………………………………………………………




新作を投稿しました!


「風竜の力を宿した少年は世界最強の風魔法使いとなる。」



https://kakuyomu.jp/works/16816927860199657582



コンテスト用なので5~6万文字ほどの中編を予定しています。

よろしくお願いいたします!<(_ _)>

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