第484話 寒さをしのぐ手作りアイテム
まだまだ寒さの続く要塞村。
最近ではその寒さをやわらげるため、編み物が流行していた。
講師を務めていたのはシスター・メリンカ。
編み物が趣味でもある彼女は、教会の子どもたちに帽子やマフラーを編んでいた。それを見ていた銀狼族や王虎族の女性たちがリクエストし、シスター・メリンカによる編み物教室が始まる。
教室は好評で、開くたびに生徒が増えていくという状況となり、最近では男性も参加するほどの人気を博していた。
その中にはエステル、ジャネット、クラーラ、マフレナの四人の姿もあった。
「うん。いい感じ」
満足げに頷いたのはエステルだった。
彼女は幼い頃からシスター・メリンカに弟子入りして編み物を習っていたため、とても慣れた手つきだった。そのため、彼女は自身の編み物を完成させつつ、周りで作業をしている村民たちへアドバイスを送っていた。
「よし。なかなかの出来栄えですね」
続いて、ジャネットも手袋を完成させる。
鍛冶職人のドワーフ族である彼女は手先がとても器用で、初体験である編み物もエステルからコツを教えてもらうとすぐにそれを自分のものとした。
「いやはや、さすがはエステル様とジャネット様ですね」
様子を見に来たフォルは、クオリティの高いふたりの作品を感心しながら眺めていた。
その時、
「おや? クラーラ様とマフレナ様の作った物がありませんね?」
エステルとジャネットの編み物はあるが、クラーラとマフレナのものがない。ふたりも参加しているはずだから、まだ作業中ということだろう。
「わ、わふぅ……」
すると、近くでマフレナの唸る声が。
フォルはその声のした方向へ視線を移動させる。
「マフレナ様のそれは……帽子ですか?」
「わふっ!? そ、そうです……」
自信なさげに呟くマフレナ。その力ない声を聞く限り、うまくいっていないのは明白なようだ。
マフレナの作った帽子は、お世辞にも綺麗なつくりとは言えなかった。しかし、きちんと帽子としての機能は果たせそうだし、一生懸命作ったのだろうという気持ちはヒシヒシと伝わってくる出来だ。
しかし、あまりにもクオリティの高いエステルとジャネットの編み物を見て、自分との出来の差にショックを受けているようだ。いつもは忙しなく動いている耳や尻尾はダランと力なく垂れていた。
「だ、大丈夫ですよ、マフレナ様。マスターならきっと喜んでくれます」
「トア様なら……」
誰にあげるのかはひと言も話していないが、一切反論がないところを見るとフォルの見立ては正解らしい。
――で、一番の問題児となっていそうなクラーラを捜していると、
「…………」
この世の終わりみたいな顔をして、巨大な毛糸の塊を見つめていた。
「ど、どうしたんですか、クラーラ様」
「あぁ……フォル?」
消え入りそうなほどの小さな声が、すべてを物語っている。
あの毛糸の塊が、クラーラの作品であることを。
「ふふふ……毛糸って、密集したら結構固くなるのね」
「おぉう……」
あのフォルがいじるのをためらうほど、クラーラの意識は遠くへと離れていたのだった。
その後、エステルやジャネットの手助けもあり、クラーラは改めてマフラーを完成させる。
四人はそれぞれ作ったものをトアへプレゼント。
セーター、手袋、マフラー、帽子はそれぞれペアとなっており、トアと四人の格好はしばらくの間、本人たちの知らないところで要塞村の名物として広まっていた。
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