第483話 みんなで雪かき

 セリウス王国を襲った大寒波は過ぎ去り、ようやく分厚い灰色の雲から晴れ間がのぞくようになった。


「はあ~……やっと外に出られるわ!」


 まず先陣を切ったのはクラーラだった。

 続いて、銀狼族とドワーフ族が外へと出て様子を確かめる。

 

「もう雪は降っていないようです」

「わふっ! ……でも、冷え込みはかなり厳しいですよ」

「そうですね。……トアさんやエステルさんたちは相当厚着をしないと厳しいですね」


 ドワーフ族であるジャネットと銀狼族であるマフレナは、外の様子をそう分析すると、すぐさまトアへと報告。


「ありがとう、ふたりとも」

「わっふっ! ――あっ! それからもうひとつ知らせなくちゃいけないことがあります」

「知らせなくちゃいけないこと?」

「要塞周辺にかなり雪が積もっていましたよ」

「今のところ支障は出ていないようですが……放っておくのも少し心配ですね」

「なら、みんなで雪かきをしよう」


 ジャネットとマフレナからの報告を受けたトアはそう提案し、村民総出での雪かきを始めることにした。



 雪かきには寒さに弱い王虎族と人魚族、さらに黒蛇族であるシャウナを除いた種族が参戦することとなる。

 残った二種族に関しては、食事の準備と要塞内の様子をチェックしてもらう役割を与え、他の種族と、協力を申し出てくれた商人や一般人で雪かきに挑む。


「雪かきなんて人生初めての経験だわ」

「私もですよ」


 この雪かきには村医ケイスと市場オーナーのナタリーも参加した。

 特にケイスはセリウス王国第二王子ということで、最初は心配していたが「あたしもこの村の一員なんだから、手伝わせて」という願いを聞き入れて、最後は一緒に雪かきすることを許可したのだった。


「よし。それじゃあ手分けして始めよう。みんな、くれぐれも怪我だけには注意してくれよ」

「「「「「おおー!」」」」」


 参加人数は総勢で百五十人以上。

 手分けしてやればそれほど時間はかからないだろうと踏んでいたトアだが、要塞内の敷地には新しく建てた物も多いので、思いのほか手間取った。

 しかし、そんな状況でもトアの表情は晴れやかであった。


「あら? 随分と楽しそうね」

 

 そんなトアの様子に気づいたエステルが尋ねる。


「ああ、いや……要塞村も大きくなったなぁと思って」

「私がここへ来た時には、もうだいぶ村として形になっていたけど……やっぱり最初は何もなかったの?」

「廃墟そのものって感じだったよ」

「その頃の話……もうちょっと聞いてもいい?」

「もちろん」


 トアはエステルに要塞村へ来たばかりの頃の話をしながら雪かきを続ける。

 そうしているうちに、大方の作業は終了。

 なんとか一日で目標を達成することができた。


「これだけやれば、明日から市場も再開できそうだ」

「診療所も無事にやっていけそうね」


 ナタリーとケイスはそれぞれの職場へと戻り、早速準備を始めようとする――が、そこへフォルがやってきて作業していた全員に呼びかけた。


「みなさん! お疲れさまでした! 熱いスープやコーヒーなどを用意しておりますので、要塞村の食堂へどうぞ! 夕食もまもなく出来上がります!」

「そいつはいい」

「冷えた体を温めたいぜ」

「体を動かして腹が減ったからな」


 仕事を終えてフォルのあとをついていく村民や協力してくれた人たちを眺めていると、クラーラが「行くわよ~」と声をかけてくれた。その横にはジャネットとマフレナの姿もある。

 トアとエステルは顔を見合わせてクスッと笑うと、クラーラたちのもとへと駆けだすのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る