第482話 要塞村に雪が降る

 この年、要塞村のあるセリウス王国を大寒波が襲った。

 毎年積雪が記録される日はあるが、今年は大雪の日が続き、市場も中止せざるを得ない状況であった。


「こんなにも雪の日が続くなんてなぁ……」

「それもただの雪ではなく吹雪だもんねぇ」

「とりあえず、南国生まれの人魚族を中心に、寒さに弱い種族には特に注意してもらわないとな」

「じゃあ、発熱魔鉱石の数を増やして、要塞内部の気温を上げておかないとね。私、みんなに話してくるわ」

「頼むよ、クラーラ」


 トアはこの非常事態に対し、すぐさま防寒対策を講じる。

 また、吹雪によって帰宅が困難になった商人や市場へ来ていた近隣の町の住人などは、要塞の一階を解放し、食事や共同浴場も提供していた。


「まさかここまでの事態になるとは……」


村長室の窓から外の様子をうかがうが、まるで今まで暮らしていた場所とは別世界のように白一色で覆われている。


「雲も厚いし、まだ晴れそうにないな」


 ため息に交じりに呟きながら、トアは村民たちのいる一階へと移動。

 そこでは、


「いやぁ、温かいな」

「こんなうまいコーヒーは初めて飲んだよ」

「風呂も大きくて快適だったしな」

「本当にいい場所だよ、要塞村は」


 悲壮感など微塵もなく、それぞれが要塞村での生活をエンジョイしていた。商人や一般人はこの要塞内部へ入ることなど滅多にないから、ここでの生活が新鮮に映ったようだ。


「みんなが楽しんでくれているのがせめてもの救いだよ」

「あっ! トア様!」


 楽しそうな空気にひと安心していると、マフレナがやってくる。


「どうかしたのか?」

「夕食の準備ができたから、みんなを食堂へ連れてきてほしいそうです!」

「もうそんな時間だったのか」

 

 要塞村には大きな食堂がある。

 しかし、さすがに今の人数は収容しきれないため、まずは村民以外の人々が食事をとることにした。

 ちょうど、クラーラ&ジャネットを中心に、エルフ族、銀狼族、王虎族の面々がドワーフ族手製の発熱魔鉱石を取り入れたランプを設置するため要塞中を駆け回っているため、村民の数は少なくなっている。みんなが仕事を終えて戻ってくる頃には、ちょうど食事も終わっているだろう。


「よし。それじゃあみんなを案内しよう。マフレナ、手伝ってくれ」

「わふっ!」


 こうして、トアとマフレナは協力して人々を食道へと案内する。



 食堂へ到着すると、フォルとエステルに役割を交代。

 今回は手に取って食べやすいサンドウィッチなどが食事のメインとなる。


「やれやれ……大人数だな」

「でも、とっても賑やかです!」

「そうだな。メリッサみたいに子どもが生まれたら、人口も増えるんだろうけど」

「子ども……」


 そこでマフレナの動きはピタッと止まる。

 不思議に思ってトアが視線を送ると、その顔は耳まで赤くなっていた。


「? マフレナ?」

「わっ……」

「わ?」

「わっふぅ!」


 顔を真っ赤にしたマフレナは突然の全力ダッシュ。

 その勢いは凄まじく、進行方向にいたオークのメルビンを吹っ飛ばしても止まらなかった。


「ど、どうしたんだ、マフレナ……」

「相変わらず罪作りな村長ねぇ」

「ホントホント」


 呆然とするトアを尻目に、その近くで何やら含みのある言葉を呟く村医ケイスと市場オーナーのナタリーであった。

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